佐々部映画の『自然体』  佐々部監督の世界

 佐々部監督作品の魅力の1つは、「役者さんが持つ魅力を引き出す」演出力にある、と前回書いたが、その最もな代表的なものは、「チルソクの夏」の陸上シーンだろう。

 監督自身、「本物の陸上競技を見せたい」と、主役4人の女子高生たちのキャスティングは、演技より陸上競技ができるかどうかにこだわった、という。それほどに見事な陸上シーンで、少女たちの肉体の躍動美には、とてつもない清々しさが画面からビンビン伝わってくる。

 この陸上シーンがリアルだからこそ、映画全体の高校生たちがうそ臭くないし、青春時代の誰もが持つ、キラキラした輝きがスクリーンを彩るのだろう。主演の水谷妃里は決してセリフ回しは上手くないが、普通の山口県の女子高生の会話になっていて、実に存在そのものが自然体でいい。

 「カーテンコール」に到っては、役者だけでなく、映画館自体が自然体だったが、役者のもならず、あんな昔ながらの映画館を探し出してロケすること自体、佐々部マジックというしかない。

俳優・香川照之さんはエッセイで天空(『映画の神様』)をも見方にする佐々部監督を「美味しい冷奴」に例えていたが、素材のよさを生かし、旨味を出す辺りは、極上のみりんのような監督さん、と言ってもいいだろう。

 

 
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佐々部映画の『笑顔』  佐々部監督の世界

敬愛する佐々部監督作品もどんどん論じていきたい。

 佐々部監督作品の魅力の1つに、俳優さんたちの「自然体」がある。佐々部監督の作品は、「役柄に役者を近づける」というより、「役者が持つ魅力に役柄を近づけている」という感じがする。

 例えば「半落ち」の梶。寺尾聡という役者が本来持つ聡明さと誠実さが佐々部演出によってにじみ出ているからこそ、梶が犯罪者ながらも、その犯罪の動機に神々しささえ覚えるのだ。

 また、他の映画では肩に力が入った演技ばかり目立っていた鶴田真由が「半落ち」で初めてナチュラルな等身大の女性を演じ、「カーテンコール」に到っては、実に自然な演技を見せていたのは、特筆すべきことだと思う。

 そして、佐々部監督作品のキーワードは、ご本人も時折指摘されているが、「笑顔」だ。映画の中で見せる登場人物たちの笑顔の、何と素敵なことか。

 人は辛いときも、我慢するために「笑顔」を見せる。楽しいときも、もちろん「笑顔」を見せる。つまりどんなときでも、「笑顔」は人生そのものを表わしているのだ。佐々部映画には、そんな「笑顔」がいっぱい描かれる。

 「チルソクの夏」で、安君と港で別れる郁子。「安くーん!」絶叫したあと、郁子は泣きながら、笑顔になる。それは、悲しいけれど、また会えるよね、という未来がいっぱいある、思春期の少女の「希望の笑顔」だ。

 また同じ「チルソクの夏」で、成長した郁子が見せる、安君と再会したときの笑顔。少女時代の笑顔を受けた、大人になって、様々な悲しみを越えて来たからこその、とびきりの「笑顔」だ。

 「カーテンコール」にも素敵な笑顔がたくさんある。数十年ぶりの舞台で、心からの「ありがとう」を魂から叫ぶ、修平の「笑顔」。演じる井上尭之さんの人生の年輪とも重なる。これも、「役者が持つ魅力」に、役柄がはまった瞬間だ。

 本当に佐々部監督は、キャスティングが上手い。今度の「出口のない海」では、どんな「笑顔」が見られるのだろうか。戦争映画だからこそ、ぜひ素敵な「笑顔」が出てくる、感動的な作品を期待したい。
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