原田芳雄さんが亡くなられた…。

本当に凄い、日本が誇る名優の死去に、残念というしかないが…スクリーンにむせるような野性味と存在感を見せ、それでいて確かな演技と色気を兼ね備えた…稀有な俳優さんだと思う。

同じ“匂い”を感じる俳優さんのほとんどは、もう既に、亡くなっている。勝新太郎さん、松田優作さん…そして、ついに原田さんが逝った…本当に残念でならない。

最近も、独特な存在感を放っていた。色気と“匂い”は健在だった。決して傑作とは言えない映画でも、原田さんが演じると、作品に独特な空気が生まれたように思う。

近作で見せた、寂しげな中に気骨を見せる老人役も良かったが、もう一度、ムンムンとした男気を放つ原田さんもスクリーンで観たかった。

僕が大学生のときに観た「われに撃つ用意あり」(1990・若松孝二監督)での、戦う男の「目」が忘れられない。かつての戦いを引きずる全共闘世代のバーのマスターが、事件に巻き込まれる外国人女性を助けるため、再び戦う物語だった。円熟味を増し、優しさと狂気を併せ持った男を好演していて、強烈な印象が焼き付いた。

余命を感じながら、自ら企画したという遺作「大鹿村騒動記」は未見だが、是非観たい。

さて、原田さんと言えば…この映画だろう。1974年の製作・公開。野性味があふれ、自堕落ながら、革命への狂気と想いを秘めた坂本龍馬役。この役は、原田芳雄さんでしかあり得ない。

ザラついたモノクロの画面が、猥雑でパワーを放つ。

自由な作風なようでいて、実は綿密な時代考証がしてある。革命を目指しながら、対立する龍馬と中岡慎太郎。そこに絡むヒロイン、中川梨絵がクラクラするほど妖艶。龍馬に近づく薩摩藩士の右太を演じるのは我らが松田優作兄貴だ。この優作兄貴も原田龍馬に負けないギラギラ感を見せてくれる。

まだまだ、人々が体制に対して怒りを露わにしながらも、多くの若者たちが行き場のない現実に慟哭を感じていた時代に製作された作品。映画は時代を反映する芸術だと思うが、70年代特有のパワーとエネルギーが込められた鮮烈さは、今観ても色あせていない。

黒木和雄監督の出世作でもあり、原田さんは黒木監督の常連となり、多くの傑作黒木監督作品に出演している。僕がリアルタイムで劇場で観た黒木監督作品で原田さんが出演している作品は時代劇の傑作をリメイクした「浪人街」(1990)ぐらいで、ほとんどの作品はビデオ鑑賞。「竜馬暗殺」は確か学生時代にビデオで観たと思うが、小さなブラウン管にも関わらず、その迫力と魅力に参った覚えがある。

黒木監督も、既にこの世にいない。「映画」は作り手や俳優さんが亡くなっても、永遠に作品は残る。その魅力を、時代を超えて伝えていくことは、その作品の精神性や背景も含めて、本当に大切なことだと思う。

原田芳雄さんのご冥福を、心よりお祈り致します。
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高倉健さんって・・・本当にすごい、と思う。

その佇まいは、正に自然体で、どんな役を演じても、独特な存在感と魅力を放つ。

こんな俳優さんは過去も現在もほかにいない。

「自然な佇まい」という意味では近いのは故・笠智衆さんかな、と思うが、「静」な笠さんとはまた違い、「静」だけでなく、「動」も秀逸な表現を魅せてくれる。

それで、ベスト・オブ・高倉健さん映画は何だろう?と考える。

僕的には、山田洋次監督作品「幸福の黄色いハンカチ」と「遥かなる山の呼び声」が双璧。この2本は何度観てもさまざまな発見があり、今、思い出しても心に染みる。

このほかにも、東映時代後半に犯人役として強烈な印象を残した和製パニック映画の大傑作「新幹線大爆破」や東映退社後、任侠映画のイメージを見事に脱却したアクション映画の秀作「君よ憤怒の河を渉れ」などがすぐに思い浮かぶが、降旗康男監督とコンビを組んだ作品群はとくに忘れがたい。

その中で、比較的近作の「鉄道員(ぽっぽや)」や「駅 STATION」「居酒屋兆治」「あ・うん」などの作品が思い浮かび、とくに「鉄道員(ぽっぽや)」は僕的に思い入れが深いが、僕が個人的に大好きなのが、1978年公開の「冬の華」だ。

この作品、健さんが演じているのは寡黙で誠実なヤクザなのだが、東映退社以来のヤクザ役。前年が「幸福の黄色いハンカチ」と「八甲田山」で、そのあとが「野性の証明」「動乱」「遥かなる山の呼び声」だから、すでに新たな魅力が大爆発していた健さんだが、新網走番外地シリーズで組んだ降旗監督が、倉本聰脚本で、古巣の東映でありながら、かつてのヤクザ役とはまた違う健さんの魅力を引き出そうと取り組んだ作品ではないか、と思う。

組織を裏切った男を刺殺し、服役して出所した男。男は、美しい高校生に成長した殺した男の娘を陰から支えていた。任侠を重んじる男の生き方が時代に合わなくなったとき、男は再び修羅場に向かう…。

健さんに陰ながら支えられる池上季実子が美しく、どんだけお嬢さんなのよ!とツッコミたくなるほどのお嬢様ぶりを見せるのだが、彼女に対する贖罪の気持ちを心に秘め、その不器用さから、すれ違う健さんの姿がたまらない。

彼女がよく通うというクラシック音楽専門の喫茶店を訪れる健さん。場違いな雰囲気に戸惑いながら、そこで、ひとときの安らぎを感じていく。彼女と顔を合わせ、彼女も自分が慕う「おじさま」に違いない、と思いながらも言いだせず…健さんは会釈だけして、店を出ていく…もう、思い出しただけでも、心が熱くなる。

映画の中で、出所した健さんが親分から年齢を聞かれて46歳と答えるシーンがあるのだが、僕の今の年齢である。何と、この映画の健さんに比べて自分は幼稚なのだろう、と思ってしまう。
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今年の1月、池田敏春監督が亡くなられた、というニュースを見て驚いた。

まさに“伝説”となった代表作「人魚伝説」(1984年公開)が撮影された伊勢志摩の海で亡くなられた。

これまた快作「死霊の罠」は、まさに日本人しか描けないモダンホラーだった。猟奇的で、でも悲しいサスペンスなどを撮らせたら、池田監督はピカイチだった。

その「人魚伝説」、今観てもスゴイ。これほどの猟奇アクション映画は、もうこれからの日本映画では観られないし、製作できないのでは、と思う。

昨今の韓国映画で「いいな」と思った「チェイサー」「母なる証明」「息もできない」は、いずれも、そのすさまじいまでの暴力描写がひとつの特徴だ。でもその「暴力」には意味があり、意味を持つからこそ、観客には「痛み」が伝わる。

この「人魚伝説」は、かつての日本映画にもあった、猥雑なパワーが満ち溢れていて、スプラッター描写にもまったく遠慮がない。実は、当時の気鋭の監督たち9人が立ちあげた映画製作会社、ディレクターズ・カンパニーの第1回作品だったのだ。

10年ほどでこの会社は無くなってしまうのだが、映画監督たちが自分たちが創りたい映画を作るために設立した画期的な製作会社であり、個性的な作品を次々と産み出し、その記念すべき第一弾が、ただひたすらに殺された夫の復讐をしようと、大きな権力に立ち向かうことになる女性を描いた「人魚伝説」と言うのも、象徴的だ。

主人公は海女。夫が何者かに殺され、海女もまた殺されかける。まちにはレジャーランド建設の計画があるが、実はその計画は原発の建設計画のダミーで、利権ほしさに地元代議士、地元土建屋が絡み、漁師の夫はその陰謀に巻き込まれて殺されたのだ。海女は、夫の復讐を果たそうとする…。

海女を演じる白都真理が美しい。脱ぎっぷりもよく、肉体に無駄がない。復讐に突き進むその表情がはかなく、見事な水中撮影による海のブルーがまた切なさを生む。寓話的な要素もあるのだけれど、血のリアルさと、人の強欲さを強調した演出はインパクトがあり、その中で殺戮を繰り返すヒロインの姿に、情念を感じる。

彼女を突き動かしているもの。それは夫への純粋な想いのみなのだが、それがやがて、原発計画による利権をむさぼる権力を破壊していく。池田監督が今の原発事故を見たら、どう思うだろう。映画では誇張はあるものの、原発計画に利権が絡む、という点はリアリティがある。今を予見しているようでもある。

残念ながらDVDは廃版になっているようだが、今も置いてあるレンタルビデオ店はあるだろう。今の時代だからこそ、再び観たい映画の一本である。

池田監督の作品に大きく関わっている、白鳥あかねさんを、今春、周南映画祭実行委員会主催のイベント「春のシネフェスタ」におよびし、トークショーの司会をさせて頂き、打ち合わせの時、池田監督について色々と語って頂いた。とある映画雑誌に、追悼の記事も書かれたそうだ。

映画黄金期時代に日活のスクリプターとして活躍し、現在は脚本家としても活躍されている白鳥さんは、この「人魚伝説」をはじめ、池田監督の作品に多く参加されている。「死霊の罠」では過酷な条件に次々とスタッフが降板する中、池田監督を白鳥さんが支えながら完成させた、という。

「人魚伝説」のお話も色々と伺った。この映画も現場は大変だったようだが、池田監督をはじめ、製作者たちの熱さと心意気は、今も作品に刻まれている。海深く潜り、復讐に疾走するヒロインは、正に当時の池田監督をはじめとする、ディレクターズ・カンパニーの映画監督たちの心意気そのものだったのだろう。

毒を吐く日本映画は今もあるし、凄惨な暴力を描く日本映画も、存在する。でも、そこにどれだけの作り手の“志”や“心意気”、または社会的なメッセージも込められるのか。娯楽映画ではあるが、再び「人魚伝説」を観て、そんなことを感じた。
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キャバレー日記  名作・傑作を語ろう!

 日活が1970年代の初めから80年代後半にかけ、経営難から成人映画にシフトする。いわゆる「日活ロマンポルノ」の誕生だが、当時、大手映画会社が成人映画専門になるなど、世界でも例がなかったという。

 この時期、東宝や松竹などの他社は製作畑の社員を募集しなかったため、日活に多くの才能が集まり、日活ロマンポルノには成人映画ながら気英の監督たちによる作品が多数誕生する。

 村川透監督の「白い指の戯れ」や金子修介監督の「濡れて打つ」、相米慎二監督の「ラブホテル」、那須博之監督の「セーラー服百合族」、藤田俊敏八監督の「エロスは甘き香り」、神代辰巳監督の「赫い髪の女」、浦山桐郎監督の「暗室」など、そうそうたる監督の作品が並ぶ。

 作風もバイオレンスからコメデイ、メロドラマ風と幅広く、僕は高校生だったが、土曜の夜に見る日活ロマンポルノが本当に楽しみで(時効ということで、御勘弁を!)正直、自分の性的な欲求を抑えるためではなく、監督名を見て「この作品が見たい」と選んでいた。しかし、ポルノ映画館独特の雰囲気は、いかにも場末の映画館、という感じで、今で言う昭和の匂いが満ち満ちていて大好きだった。

 根岸吉太郎監督も、若いころ、日活ロマンポルノで腕を磨いた監督さんの一人。この「キャバレー日記」(1982年)のときは、立松和平の小説を映画化した前年の「遠雷」ですでに話題を呼んでおり、才能ある若手監督として注目を集めていた。

 そのあとも「ひとひらの雪」「ウホッホ体験隊」など数々の傑作を撮るが、つい最近も「透光の木」「雪に願うこと」「サイドカーに犬」など、相変わらずの繊細な人物描写で多くの傑作を撮り続けている。

 さて、この「キャバレー日記」(1982年)は、軍隊式のピンクサロンに勤める伊藤克信と、そこに勤める竹井みどりの悲しい恋愛を、コメディタッチで描いた傑作だ。

 確か僕は、「遠雷」の根岸監督の最新作ということで見に行ったのだが、高校2年生だった(だから、時効ということで…)。当時、あまりの面白さに成人映画館で1人興奮(別の意味の興奮はこのときはなかった!)した覚えがある。

 伊藤克信は前年の森田芳光監督作「の・ようなもの」(これまた傑作!)で鮮烈なデビューをしたが、この作品でも栃木弁なまりの何とも言えないとぼけた雰囲気を見せる。軍隊式のキャバレーでいやいやながら純朴に働く伊藤が可笑しくも悲しい。

 竹井みどりのヒロインも美しく、僕はこのあと竹井みどりのグラビアを見つけては興奮(こっちはさっきとは違う興奮)していたが、5年前「チルソクの夏」で、久々にスクリーンで竹井みどりさんにお会いし、大変嬉しかった。

 コメディの中にもブラックなユーモアや現代社会に対するアンチテーゼが盛り込まれ、ポルノの要素もしっかり入ったこの作品は、僕の中ではベスト・オブ・日活ロマンポルノなのである。


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※ネタバレが含まれています。未見の方、御注意ください。

1971年製作の、スティーブン・スピルバーグ監督のデビュー作。この作品を撮ったとき、スピルバーグ監督はまだバリバリの20代だ。

もともとアメリカではテレビ映画として製作されたが、日本では出来がいいので劇場公開された。

広大な台地を車で走るビジネスマンが、タンクローリーを追いぬいたところ、追われる羽目となる、という、それだけの、実にシンプルな話なのだが、一気に最後まで見せる。

とにかく恐怖感を盛り上げる演出が上手い。緊迫感あふれるカットを積み重ね、見る者を興奮させてくれる。

恐らく、スピルバーグ監督は自分が面白いと感じた、ありとあらゆる活劇映画の体験をこの一本に込めたのだと思う。主人公を襲うタンクローリーは運転手の姿を一切見せず、サスペンスを盛り上げてくれる。

普通のタンクローリーかと思いきや、その巨大さを強調する細かいカット割りが重なり、次第に不気味さと恐怖感を出して行く。この辺の手法はヒッチコック風である。

ナゾの運転手はクライマックスでギアを切り替える手だけが写るが、そのタイミングがまた見事で、「これだけかい!!」と観客は地団駄を踏むのだ。

またチェイスのシーンなど、活劇の描写は黒澤明監督の「七人の侍」やジョン・フォード監督の西部劇も彷彿とさせる。タンクローリーがモンスター化していく辺りは、日本の怪獣映画の影響もあるように思う。

タンクローリーのホイールが外れ、巨大なタイヤに踏みつぶされていくシーンなど、実に計算されていて、スピード感とスリル、サスペンスが共存した、いい場面だ。

スピルバーグ監督は、最新作「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカラの王国」でも、チェイス・シーンの演出に冴えを見せている。どうカット割りをしたら、観客は面白い、と感じるのか、そのスキルは、この第一作目にして、すでに完成している。

余計なお話があったりして、決して傑作ではない作品も見受けられる昨今のスピルバーグ監督だが、もう一度、低予算のアイデアだけのアクション映画を、円熟味が増したスピルバーグ監督が撮ったらどうなるのだろう?

次元は違うが、クエンティン・タランティーノが「デス・プルーフ」なんて作品を未だに撮っていることを思うと、そんな空想もしてしまう。
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皇帝のいない八月  名作・傑作を語ろう!

仕事でちょっと必要があって、30年ぶりにDVDを購入してこの作品を観た。

いやあ、面白いじゃん!!!

1970年代、日本はこういうパニック大作をブームに乗って次々と作っていた。

藤岡弘、主演の「日本沈没」「東京湾炎上」や山岳パニック「八甲田山」に、東映の「新幹線大爆破」など、みんな見応えがあった。

共通しているのは、重厚さ、という点だろう。面白い、面白くないは別として、どれも真面目に作っており、非常時における政府の対応を重く描き、現代社会の問題点や側面を描き出そう、というところでは一緒だ。当時の作品群に比べると、リメイク版「日本沈没」など、本当に軽い。

ただ面白い、だけに終わらせようとしてないのは、カツドウヤとしての、映画人の意地のようなものがあったのだと思う。それから、監督なり脚本家の思想というか、物の考え方がしっかりしている、ということだろう。

そういう意味では、この作品もそう。社会派の作品でいくつもの傑作を生み出している山本薩夫監督だが、どの作品も必ず政治権力批判が明確で、思想性が出ているにも関わらず、娯楽作品としても面白いのは、演出力が優れているからだと思う。「白い巨塔」も「華麗なる一族」もテレビより山本監督の映画版の方が面白い。

この映画、オープニングのパトカー炎上シーンからなかなか見せる。小さな事件が大きな事件に発展する展開はなかなか快調。ブルートレインをジャックした渡瀬恒彦率いる自衛隊の小隊が、徳山駅(!僕の家から車で10分の駅だ。どうやら私鉄駅を改造して撮って、そのあとはセット撮影らしい)で政府と交渉するシーンはスリリングで手に汗握る。

徳山駅ではクーデターに失敗した別小隊の生き残りの山崎努が車いすで連行される。投降しないと仲間を殺すぞ、と脅される渡瀬。すると山崎と渡瀬はアイコンタクト。

次の瞬間、山崎が車いすにかけられた毛布を振り払うと、身体には無数の銃に撃たれた跡が・・・。渡瀬は山崎を撃つと、爆弾のスイッチを握り締めたまま列車に乗り、再びブルートレインは闇の中を疾走していく・・・。

いやあ、このスリルあふれる展開!!書いていてまた見たくなった。政府の描写やアメリカの陰謀劇など、山本節を展開させながら、ラストは大衝撃の大アクション。こんなことあっていいのか!?という考えさせる展開になる。

ヒロイン役の吉永小百合が30代ぐらいのいいあんばいで、今の竹内結子のような容姿と雰囲気なのに驚く。

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ブルークリスマス  名作・傑作を語ろう!

 岡本喜八監督というと、「独立愚連隊」や「日本の一番長い日」など、傑作はいくつもあります。この映画は岡本作品としては世評的には決して高くない作品ですが、この映画も「野獣死すべし」と同様、高校生のときに観た、忘れられない映画です。

 当時、僕はSF小説に凝っていて、映画もSF物が大好きでしたが、派手なスペースオペラよりは身近な社会にSF的な驚異がある、というような設定の小説が大好きで、この作品は正に当時の僕のSFマインドをくすぐり、満足させてくれた作品です。

 ある日、日本各地にUFOが出現し、それを見た人間の血は青くなってしまう。宇宙人の驚異を感じた政府は、青い血の人間の粛清を始める…。

 青い血云々はともかくとして、異端を政府が巧妙に排除する、という描写が現実的で、SFを借りて政治支配の恐怖を描いたポリティカルサスペンスとしても1級品になっています。岡本監督が一貫して描いてきた権力への懐疑心がこの映画でも明快に語られます。

 劇中、大滝秀治扮する政府の高官が、青い血の粛清に反対し、デモ行進する学生たちを見て「若者たちは何も政府が発信してないのに敏感にこちら側の動きを察知する」というようなセリフを言うシーンがあって、公開時、ここに唸った覚えがあります。

 いい、悪いは別として、政治や世の中の動きに若者は自然と察知し、敏感である…。当時、「俺はこれでいいのか」と思ったのですが、今やそんな敏感さを、若者は失ってしまったというか、放棄してしまったような感さえある現在、この映画も隔世の感があります。

 物語の大筋は粛清する側の自衛隊員の勝野洋と、青い血になってしまった恋人の竹下景子との悲恋なのですが、仲代達矢の演技もなかなか鮮烈で、できれば現代にもう一度見たい作品です。
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野獣死すべし  名作・傑作を語ろう!

 この映画を映画館で観たのは、高校2年生のとき。僕たちにとって「松田優作」とは、正に郷土の誇りであり、リアルタイムのヒーローでした。

 とくに映画仲間で親友のT君とはともに優作さんに入れ込んでいて、いつも2人で優作さんの映画の話で盛り上がっていました。

 よく覚えているのは、確かその日は雨が降っていて、2人で急いで自転車を漕いで映画館に入ると、もう映画は始まっていました。ブルーを基調としたちょっと荒い画面に、外と同じように映画の中も雨が降っていて、優作さん扮する伊達邦彦が、拳銃を奪うシーンが展開されていました。その場面の鮮烈さに、2人ともイスに座るのも忘れて、釘付けになってしまいました。

 この映画は、優作さんが今までのハードボイルドのイメージを変えようと、原作の「伊達邦彦」から大きくキャラクターを逸脱。ベトナムで地獄を見た戦場カメラマンが、何かに憑かれたように犯罪を犯して行く、という物語になっていました。

原作者は激怒したらしいですが、原作小説とは全く雰囲気が違います。僕らも原作を読み、てっきり「蘇える金狼」や遊戯シリーズで見せてくれた、カッチョイイ、タフな優作さんが見れる!と思って劇場に行ったので、それは意外でうれしい裏切りでした。

 優作さんは10`近く減量し、抜歯もしたとか。正に狂気の「伊達邦彦」になり切っていて、その病的な狂気に、究極のカッコ良さを感じ、本当に痺れて映画が終わったあとは2人とも立ち上がれないほど。10代で感性も若かったのか、ああいう『映画体験』はあれが最初でした。

 それからかなりあとの「家族ゲーム」や「それから」、久々のアクションでこれもまたうれしい裏切りをしてくれた「ア・ホーマンス」も大好きですが、この作品も忘れられない優作映画の1本になっています。
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殺人の追憶  名作・傑作を語ろう!

 下関のタウン情報サイト、ナビタウンのおすすめシネマで、佐々部監督も絶賛していた作品がこれ!

http://www.navitown.com/weekly/cinema/index.html

 新作「グエムル〜漢江の怪物」が評判の、ポン・ジュノ監督の前作だが、これが見終わったあと、久し振りにガツンと来る犯罪映画なのだ。

 今村昌平監督の「復讐するは我にあり」や野村芳太郎監督の「砂の器」などを思わせるが、やっぱりジュノ監督は今村監督の熱狂的ファンで、日本映画ファンらしい。

 韓国の郊外で、若い女性を狙った連続猟奇殺人事件が発生。時は80年代の軍事政権下で、思うように捜査ができず、刑事たちはイライラするが、やがて有力容疑者が逮捕されて…。

 ちょっぴりくたびれていて、少々強引だが犯人逮捕に執念を燃やすソン・ガンホの存在感がいい。容疑者たちも実に個性的。なかなか事件が進まない焦燥感や、地味ながら意外な展開を見せる物語など、丁寧な演出で観る側をぐいぐい引っ張って行く。ラストの印象的なカットも、何とも言えない余韻を残す。

 日本映画がギラギラしていたころの本格社会派ミステリ映画の後継者が韓国にいた、というのも驚きだが、ジュノ監督はまだ30代前半というから驚く。

 「グエムル〜」は近くのシネコンではかかってなくて、隣りの隣りのまちまで行かないとやってないが、ぜひ、近く見に行きたいと思っている。こんな作品を撮った監督が、どんな怪獣映画を撮ったのか?実に興味深い。
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幸福の黄色いハンカチ  名作・傑作を語ろう!

 「出口のない海」で脚本を担当している、山田洋次監督の傑作。山田監督と言うと、どうしても「男はつらいよ」シリーズが一般的だが、それ以外にも傑作は数多い。

 最近の時代劇「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」も秀作だが、松竹大船調を正統に受け継いだ作風に加え、ユーモアあふれるコメディタッチの中にも細やかな人情を描き込んだ作品こそ、山田監督の真骨頂だと思う。

 個性あるキャラクターを活かし、多彩な山田ワールドが展開される寅さんももちろん素晴らしいが、役者さんの個性が100%以上に生かされ、ユーモアを交えながら物語が感動的に進むこの作品は、日本映画が描いてきた人間ドラマの到達点の一つと言っていいと思う。

 まず、健さんが素晴らしい。過去がありながら、妻への思いを引きずっている不器用な性格が、一つ一つのセリフ、たたずまいから痛いほど伝わる。これと対照的な武田鉄矢、桃井かおりの不器用な若いカップルも、今の芸達者ぶりとは全然違う、振る舞いやセリフを言うときの自然さが素晴らしい。

 不器用だけど心優しい男と若いカップルが、大自然豊かな北海道で出会い、お互いに刺激しあいながら旅をし、最後は分かり合って感動のラストーと向かう。ロードムービーとしても秀逸だが、この3人のやり取りがいい。

 さりげないシーンだが、健さんが桃井かおりに「姉ちゃん、何の仕事してんの?」と尋ね、列車の車内販売をしている、あれも結構大変だ、と受け答えをする場面が印象的だ。3人の心が微妙に近づいていることが何気ないセリフから分かる。公開当時、僕は中学生だったが、このシーンに「山田監督ってすごいなー」と思ったことがある。(ませたガキだ)

 あと、佐藤勝の音楽が印象的だ。佐藤勝のスコアはメロディアスではないし、どの作品も同じような音使いなのだが、最近の映画音楽のように、やたら起伏のあるメロディーで映像世界を邪魔することは絶対にしない。

 それでいて、映像の効果を高める情感ある音楽を付ける「映画音楽の作曲家」としてはプロ中のプロだが、この作品でもラストのハンカチがはためく場面などで、佐藤勝の実力が発揮されている。

 そうそう、この映画、「チルソクの夏」でも上野樹里扮する真理とボーイフレンドの宅島先輩がデートする映画として登場します。
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仁義なき戦い  名作・傑作を語ろう!

 このカテゴリでは、僕が大好きな名作・傑作を取り上げたいと思います。皆さんのその作品に対する思い出や意見もどしどし聞かせてくたざいね。

 で、第1回は深作欣二監督作「仁義なき戦い」!

 津島利章作曲のテーマ曲は、布袋さんにアレンジされ、クラブでもかかっているぐらいメジャーになっちゃった。あの甲高いトランペットのチープなメロディーに、原爆雲の画像、そして小池朝雄のナレーションが流れてきただけで、背中がゾクゾクする、バイオレンス映画の最高傑作だと思う。

 このシリーズ、ものすごくたくさんある。ちなみに深作監督作品は最初の「仁義なき戦い」以降、「仁義なき戦い 広島死闘篇」「仁義なき戦い 代理戦争」「仁義なき戦い 頂上作戦」「仁義なき戦い 完結篇」「新仁義なき戦い」「新仁義なき戦い 組長の首」「新仁義なき戦い 組長最後の日」と8本で、他に工藤栄一監督作もあるし、阪本順治監督のリメイク作もある。

 でも、こずるい金子信雄扮する親分の山守組の成立、分裂、抗争を描く本来の“仁義なき戦い”は第1作から広島死闘篇、代理戦争、頂上作戦を経て、完結篇に到るまでの5本で、「新仁義なき戦い」は山守組が舞台ではあるが主人公の菅原文太アニイの名前がそれまでの広能できなく、世界観がちょっぴり違う。あとは出ている人は同じでも、舞台や設定は全然別のものだ。

 ファンの間では「広島死闘篇」の人気が高いが、シリーズ第1作はやはり、インパクトがあった。腕でも何でもぶった切る容赦ないヤクザの世界。手持ちカメラを駆使した、荒く、揺れる画面に展開するど迫力のアクションシーン。戦後間もない闇市の雰囲気、菅原文太や梅宮辰夫ら主役陣から脇役まで、役者たち全員のギラギラした顔、演技。そして子分でなくてもイライラする山守親分のズルさと脳髄に入ってくるようなイヤーな甲高い声…。

 とくに手持ちカメラを使ったアクションシーンは画期的。画面が安定しているとか何とかは関係なしに、画面が揺れまくるのだが、これが闇市のセットとも相乗効果をあげ、ドキュメンタリーのような様相を見せる。この手法はのちのちのジョン・ウー監督やタランティーノ監督に大きな影響を与えた。

 深作監督が描く「暴力」は、生前、監督を取材させていただいた時、少年時代に経験した戦争によって痛感した国家への無力感や、暴力は暴力しか生まないことへの怒りがベースになっている、と感じたことがある。

 この作品も凄まじいまでの男たちのエネルギーが描かれるが、殺伐とした時代に、平気で上も下も裏切る親分に対して「仁義もクソもあるかい」と切れまくり、暴力に走る広能たちを、深作監督は徹底して描いている。

 人間は優しいだけでなく、時折、底知れぬ暴力性を見せるものだ。実は誰もが持っている「人間の暴力性」を、リアルに描いているからこそ、この映画は傑作なのであり、時代を経ても色あせない魅力を持っているのだと思う。
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