今回は、済州方言特有の「語末子音の複写」という発音変化についてお話しする。
「語末子音の複写」を説明する前に、まずは朝鮮半島の方言での発音変化について確認しておこう。
@ 집(家) + 안(中) → 집안[지반](家の中、一族)
큰(大きい) + 아버지(父)→ 큰아버지[크나버지](父の長兄、おじさん)
못(不可能) + 온다(来る)→ 못 온다[모돈다](不可能:来られない)
A 돈 없어서 밥 얻어먹은 사람 아니다(金がなくてただ食いした人ではない)
[도 넙써서 바 버더머근 사라 마니다]
@は、子音(パッチム)で終わる単語に母音で始まる単語が結びついて「複合語(合成語)」をなす例。Aは、子音で終わる単語に母音で始まる単語が連続して発音される例である。
いずれも、前の単語の子音が後の単語の母音と結びつく「連音化(仏 enchainement)」が起きている。標準語をはじめとした朝鮮半島の方言ではごく当たり前の発音変化である。
ところが、済州方言では、これら@とAは次のように発音される。
@ 집(家) + 안(中)→ 집반[집빤](家の中、一族)
큰(大きい) + 아버지(父)→ 큰나버지[큰나버지](父の長兄、おじさん)
못(不可能) + 온다(来る)→ 못 돈다[몯똔다](不可能:来られない)
A 「돈、엇언(없어서)、밥、얻어먹은、사름(사람)、아니라(아니다)」を連続して発音すると、
돈 넛언 밥 벋어먹은 사름 마니라
[돈 너선 밥 뻐더머근 사름 마니라]
いずれも、前の単語の子音が重子音化して2回発音されている。すなわち、1つ目の子音は単語を単独で発音したときと同じように発音し、次に、新たに出現した2つ目の子音が後の母音と「連音化」して発音されている。
韓国の言語学者정승철(チョン・スンチョル)氏は、1つ目の子音が複写されて2つ目が生じたとして「語末子音の複写」と呼んでいる(「제주도방언」、『한국방언사전』(태학사))。
「語末子音の複写」は、日本語の「観音 カンノン」、「反応 ハンノウ」などの発音変化や、イタリア語の「a(英 to)+ la(英 the)→ alla(英 to the)」や「a + casa(英 house)→ a casa[akka:za](家に)」など「統語的重子音化」とも類似した現象といえよう。
次回は、済州方言を話す際のイントネーションについてお話したい。

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