今回は済州方言の人称代名詞についてお話ししたい。
済州方言の人称代名詞を一覧にして示すと以下の通りである。
1人称単数 非謙譲形:나(男:わし、おれ 女:あたし) 謙譲形:저(わたし)
2人称単数 非尊敬形:느(おまえ、きみ) 尊敬形:이녁(お宅)
3人称単数 非尊敬形:이사ㄹ・ㅁ,그사ㄹ・ㅁ,저사ㄹ・ㅁ(この、その、あの人)
:야이(この子),가이(その子),자이(あの子)
尊敬形:이분(この方),그분(その方)、저분(あの方)
1人称複数 :우리,우리덜(われわれ、私たち)
2人称複数 非尊敬形:느네덜(おまえたち、きみたち)尊敬形:이녁덜(お宅ら)
3人称複数 非尊敬形:이사ㄹ・ㅁ덜,그사ㄹ・ㅁ덜,저사ㄹ・ㅁ덜
(この、その、あの人たち)
:야이덜,가이덜,자이덜(この、その、あの子たち)
尊敬形:이분덜,그분덜,저분덜(この、その、あの方たち)
疑問形 :누게(誰)
次に、済州方言の人称代名詞の特徴的な事柄について述べておこう。
・朝鮮語の人称代名詞のうち、本来的な人称代名詞は、1人称単数「標・済:나」と2人称単数「標:너、済:느」だけのようである。ほかのものは、普通名詞が代名詞化したものであったり、指示代名詞に名詞、更には複数を表す(標:들、済:덜)が付いて出来たものといえる。
・済州方言には本来1人称単数の謙譲形「저」はなく、20世紀初めからの朝鮮半島の諸方言、ことにソウル方言の影響で「저」を使用するようになったようだ。
・2人称の「이녁、이녁덜」には英語の「you」やフランス語の「vous」ほどの敬意はない。日本語の「あんた・お宅」ほどの敬意である。年の近い疎遠な人同士が、あるいは、年上が疎遠な年下の成人に話す際に使用する。「이녁、이녁덜」を使用する際、文の述語は通常は敬語体である。
例 이녁이 경 ㄱ・ㄹ앗수게(お宅がそう言ったんじゃありませんか)
・3人称の「야이,가이,자이」は「이 아이,그 아이,저 아이」が縮まった形である。慶尚方言の「야아,가아,자아」、平安方言の「야아,갸아,쟈아」とも類似している。
・疑問形「誰が」は、標準語では「누구」の「구」が脱落したところに主格「가」が付いて「누가」となる。一方、済州方言では「누게」に主格「가」が付いて「누게가」となる。
例 누게가 느네 집이 올앗이니?(誰がおまえの家に来たんだい?)
次回は、指示代名詞についてお話しする予定である。

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