新年明けましておめでとうございます!
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さて、今日は朝鮮語・韓国語での新年のあいさつについてお話しする。通常、朝鮮語を勉強していて教わるのは次のものである。
새해 복 많이 받으세요(セヘ ポンマーニ パドゥセヨ)
朝鮮語を勉強している方にとってはお馴染みの表現であろう。
実は、そのほかに次のような新年のあいさつもある。
새해를 축하합니다(セヘルル チュッカカムニダ)
과세 안녕하십니까(クァセ アンニョンハシムニカ)
これらの違いは一体何なのか?
まずは、これらの表現の意味を見てみよう。
1つ目の「새해 복 많이 받으세요」を直訳すると、「新年福たくさんもらって下さい」となる。
2つ目の「새해를 축하합니다」を直訳すると、「新年をお祝いします」となる。
3つ目の「과세 안녕하십니까」を直訳すると、「年を越してご機嫌いかがですか」となる。「과세」は「過歳(歳を過ぎる)」という漢字語である。
次にこれらの表現がどの地域で使用されるのかについて見てみよう。
1つ目の「새해 복 많이 받으세요」は韓国で使われる表現である。
2つ目の「새해를 축하합니다」は朝鮮で使われる表現である。
3つ目に挙げた「과세 안녕하십니까」は在日朝鮮人社会で使われる表現である。
それでは、何故3つの地域で独自の表現が使われるようになったのか?
これら3つのうち、最も古いのは、3つ目の「과세 안녕하십니까」である。20世紀前半、朝鮮が日本の植民地だった頃から1950年代前半まではもっぱらこの表現だったようだ。在日朝鮮人の多くが日本に来たのは1940年代である。なので、在日朝鮮人1世はそもそも「새해 복 많이 받으세요」という表現を知らなかった。
最近、40代以下の在日朝鮮人のなかには韓国に留学したり、生活する人も多い。そのような人たちの中では、韓国で「과세 안녕하십니까なんて表現はない」と言われて傷つき、「새해 복 많이 받으세요」を使うようになった人も見受けられる。
「과세 안녕하십니까」という表現は、在日朝鮮人がいつ日本に渡ってきたのかという歴史を物語ってくれる表現なのだ。今後ともどんどん使い、受け継いでいくべきである。
残りの2つ、「새해 복 많이 받으세요」と「새해를 축하합니다」は、朝鮮戦争(1950−53年)によって朝鮮が分断された後、南北で別々に使われ始めた表現のようだ。
数年前、1980年代以後に韓国から日本へ来た人たち数名に「과세 안녕하십니까」を使うか試してみた。全員ソウルで生まれ育った人たちである。
正月に会った際、「과세 안녕하십니까」と言ってみた。すると、1950年代生まれ、60年代生まれ、70年代生まれ共に、一瞬考えた後、「새해 복 많이 받게」や「새해 복 많이 받아요」などの表現で答えていた。
この点から、彼らにとって新年のあいさつは「새해 복 많이 받으세요」であり、かつ、1950年代後半にはソウル地方で使われていたことが分かる。
朝鮮で使われる「새해를 축하합니다」も南北分断後に生まれた表現であることは確かだ。だが、いつ頃から使われ始めたのかは分からない。
「과세 안녕하십니까」が廃れ、「새해를 축하합니다」が使われるようになった理由として次のことが考えられる。朝鮮では1960年代から、漢字語や難解な単語、または、日本語由来の単語を固有語に改める言語政策「말다듬기(言葉の言い換え)」が活発化した。「과세 過歳」という漢字語の漢文っぽさ、古風さが言い換えの対象になったのではなかろうか。そこで、より平易な表現として「새해를 축하합니다」が使われだしたと考えられる。
1950〜60年代の朝鮮の読み物(新聞、雑誌、小説、エッセー)などを調べてみる価値が有る。
新年のあいさつ1つ取ってみても、朝鮮語と朝鮮人の経てきた歴史が反映されているのである。

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