今回から「時制(テンス)」に入る。
「時制(テンス、英tense)」とは、「現在形」や「過去形」など「いつその行為が行われたのか・いつその状態だったのか」を表すもののことである。
今回はまず「過去形」についてお話しする。
過去は「앗/엇/엿」という形(接尾辞)で表す。標準語「았/었/였」よりㅅが一つ少ない。
朝鮮語の多くの方言では実は「앗/엇/엿」が普通である。逆に標準語の方が例外的なのである。
「앗/엇/엿」の付け方は、語幹の母音が何であるかによる。
@ 語幹最後が陽母音(ㅏㅗㅐ・)の場合は「앗」を付ける
例 잡다:잡앗수다(잡았습니다) 가다:가앗저→갓저(갔다) 보다:보앗수꽈=봣수꽈(보았습니까)
A 動詞・形容詞「ㅎ・다(하다)」の語幹「ㅎ・」には「엿」を付ける。
例 ㅎ・다:ㅎ・엿수다=햇수다(하였습니다=했습니다)
標準語「하다」に過去形「였」が付いて하였다=했다になるのと同じである。
15〜16世紀の中世朝鮮語では「ㅎ・다」には語尾「야」が付いて「ㅎ・야(現代語 하여:して)」だった。
「して(今)いる」に当たる「ㅎ・야잇다」が「ㅎ・얫다→하엿다」を経て「하였다=했다」となった。
B 語幹最後が陰母音(ㅜㅣㅓㅡㅟㅔㅚㅞ)の場合は「엇」を付ける
例 신다:신엇곡 (신었고) 주다:주엇이냐(주었는냐) 먹다:먹엇주(먹었지) 되다:되엇이니=돼시니(됐는냐)
過去形「앗/엇/엿」を付ける上で標準語とは異なる点をいくつか記しておく。
@ 語幹母音が「・」あるいは「・・(y+・)」の場合は「앗」が付く。
例 ㅅ・다(서다) : ㅅ・앗저→삿저(섰다) ㅇ・・ㄹ다(열다) : ㅇ・・ㄹ앗수게(열었지요)
ㄱ・ㄷ다(말하다) : ㄱ・ㄷ앗이매→ㄱ・ㄹ앗이매(말했기에)
ㄷ変則活用動詞「ㄱ・ㄷ다」は中世には朝鮮半島でも用いられていたようだ。現在では古風な引用語「가로되(曰く)」として化石的に残っているのみである。「ㄱ・ㄷ다」は済州方言ではいたって普通に使われている。
A 語幹が「ㅐ」の場合は「엇」が付き、「ㅐ+子音」の場合は「앗」が付く傾向がある。
例 내다:내엇구나→냇구나(냈구나) 맺다:맺앗이민(맺었으면)
B 語幹最後の音節が「우」の場合、ならば「앗」が付く傾向がある。
例 피우다:피우앗저→피왓저(피웠다) 배우다:배우앗잉가→배왓잉가(배웠는가)
C ㅂ変則活用の場合、語幹母音が陽母音ならば「앗」が付き、陰母音ならば「엇」が付く傾向がある。
例 곱다 : 곱앗구나→고왓구나(고왔구나) 맵다 : 맵앗는디→매왓는디(매웠는데)
춥다 : 춥엇이난→추웟이난(추웠으니까) 덥다 : 덥엇이카→더웟이카(더웠을까)
D 語幹最後の母音が「ㅡ」の場合、その前の母音が陽母音ならば「앗」が付き、陰母音ならば「엇」が付く傾向がある。
例 아프다:아프앗저→아팟저(아팠다) 맨들다(만들다): 맨들앗수다(만들었습니다)
지프다(깊다) : 지프엇저→지펏저(깊었다) 질르다(기르다) : 질르엇주→질럿주(길렀지)
次回は現在を表す形についてお話しする予定である。

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