仕事を終え、東京は渋谷にある伝承ホールに「志らく一門会特別編」を見に行く。いつもの一門会とは違い、志らく一門の二つ目による真打昇進をかけた真打トライアルが中心となっている。
伝承ホールは自分がよく行くシアターNに向かう坂を上った所にあった。
6時30分過ぎに開場。
7時頃に開演。
まずは志らくが出てきて挨拶。「開口一番ではありません」と言って笑いを取る。特別編のあれこれを説明して引っ込み、まずは前座3人による二つ目昇進試験。落語をやると思ったら講談を5分ずつやるとのこと。立川流は唄、踊り、そして講談もそれなりに出来なければならない。
らく八、らく太、らく兵が出てきて高座に3人並んで座る。1人ずつ出てきてやるのではなく真ん中の人がやっている間、後の2人は両脇で待っているというのがなんとも不思議な風景だった。
まずはらく兵から。講談の上手い下手は分からないのだが(落語の上手い下手もそんなに分からない)、淀みなく良い調子でポンポン喋っているのでこれは良いのではないかと思っていたら途中でセリフが思い出せなくなって止まってしまった。どうにも思い出せず苦しんでいたが、ただ苦しむのではなく大げさな仕草で客を楽しませながら苦しんでいて、その、客の視線を忘れない了見は芸人に向いていると思った。結局、らく太に助けてもらってなんとか言い切る。
次のらく太は突っかえながら始まったのでらく兵ほどではないかなと思ったが、中盤あたりから乗ってきて良い感じで終えた。
らく八は駄目だった。最初から最後まで突っかえまくりで、弱気になっているのが扇子で膝を叩く音からも伝わってきた。5分を待たず袖から志らくの伝令で志ららが出てきてそこまでとなった。練習ではもう少し上手く出来たのだろうが本番に弱いのだろう。何だか自分を見ているようでいたたまれない。それと、「何で講談を覚えなければならないのか」という疑問も頭の片隅にあるのだと思う。そういう疑問があるとなかなか頭には入ってこない。もう入門して12年になるのにこの調子では本当にキウイの前座16年半という恥ずかしい記録を抜いてしまうだろう。松垣透著「破門」の中では、志らくは「前座は4年がリミット」だと言っていたとのことだったが今は考えが変わったのだろうか。志らくは師匠談志と同じ遺伝子を持っていると言われている。談志は、どんなに見込みがなくても自分を慕って入ってきた弟子になかなか引導を渡せないらしいが、そんなところも師匠談志譲りなのだろうか。それは優しさなのか甘さなのか。
その後、真打トライアルになり、二つ目4人が持ち時間15分で一席ずつやってゆく。
まずはらく朝。
噺は「替り目」。
落ちは知らないパターンだった。
次が志ら乃。
噺は「粗忽長屋」。
まずまずで笑えた。
次がこしら。
噂に聞く志らく一門の総領弟子。なのに総領弟子としての威厳のようなものがまったくない。弟弟子にもあまり信用されてないよう。次男なのに長男の位置にいるような感じが何だかおかしい。
持ち時間が15分で、前の2人はすぐ噺に入ったのにこしらはまくらが長い。そしてやっと噺に入るのだが、こしらは噺に入る前に季節関係なく一年中「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し口先ばかりではらわたはなし」と言うらしく、他の客もそれを知っていて「江戸っ子は」と言ったところで場内大爆笑。初めて聞く自分も何故か爆笑。「ワンパターンも20年やり通せばワンアンドオンリーになる」というのはラモーンズに送られた賛辞だが、これはそのままこしらにも当てはまる。
肝心の噺は「看板のピン」。
こしら流にアレンジしてあって今日一番笑った。でも、笑いながらも古典落語からは一番遠いような気がするとも思った。でも笑った。
最後が志らら。
噺は「ちりとてちん」。
こしらがとっ散らかした空気をものともせず、賑やかで明るいキャラクターを全面に出していて昇太みたいでおもしろかった(志らくの講評でもヘタな昇太兄さんみたいと言われていた)。
中入り休憩中に投票。
4人のうち2人まで投票出来るとのことで、個人的には志ら乃に肩入れしたいのだが、笑った順でいうと、こしら、志ららなので今回はその2人に投票。
そして、休憩が終わり志らくの一席。
この後に講評があるので大ネタはやらず、CDにも入っている「親子酒」。噺の中で今日の弟子の講評を混ぜていた。志ん朝のモノマネが生で見られてうれしい。ん〜錦松梅。
そしてメインの講評。
二つ目の4人が投票結果の点数が書かれた色紙を持って登場。その点数に志らくが講評しながら100点満点で何点というふうに足してゆくのだが、どこが良くてどこが駄目でそれを克服するにはどうすればいいかという講評が見事だった。ああ、この人はこの4人の師匠なんだなあとあらためて感じた。
今回の点数は、らく朝114点、志ら乃247点、こしら224点、志らら172点で志ら乃がトップ。今回の結果で決定ではなく、今年中に何回か開催してその結果で真打になれるかどうかが決まる。点数が高くても志らくが認めなければやはり駄目らしい。志らくや談志が持つ落語の美学をどこまで汲めるかにかかっているよう。
次回のトライアルも絶対見たい。
http://www.shiraku.net/
「今日の銀シャリ」
朝
漁師めし
ごはん
味噌汁(キャベツ、厚揚げ)
コーヒー
昼
弁当(豚肉とキャベツの炒め物)
ミルクパン2個
麦茶
夕方
ミルクパン3個
