「ドキドキドキ」 「ムカムカムカ」 心臓がおかしい。脈は、勝手に飛びながら走る。
まさか、これからの執行部会で緊張するはずもなく。気分が落ち着かないままライブラリーに。Tさんはもうお茶の準備をしていた。
「心臓が変なのよぉ。倒れるかもしらんわ。そのときはすぐ、救急車呼んでねぇ」などと、顔を遭わせた人々に冗談っぽく伝えておいた。
会議が終わると、朝のあれは・なんだったのか心臓は落ち着いていた。
12時50分には、迎えに来てとかっちゃんに伝えていたので、時間通りにやってきた。
マナさんと・セナちゃんも誘ってシビックに乗り込むが、かっちゃんの様子がおかしい。
「こいつ、煙が出るのよ」 」ほんとにこの車かね?」後で考えてみれば、とんちんかんな質問を投げかけたものだが、どうにも信じられなかった。
しかし、かっちゃんは何度も車を降りて煙が出ていたという、シビックの前のほうを見ている。「大丈夫かなぁ? 大丈夫かなぁ??」と、発車しようとしない。
「ここでこうしとってもしょうがないから、とにかく駅の近くのガソスタまで行こうよ。そこで見てもらえば、ある程度のことはわかるよ」と、怖がるかっちゃんに言葉をかけて車を出させた。
マナさんと・セナちゃんには、「ごめんねぇ。今度お乗せするまでには、車を変えておきますんで」と・・・。今思えば、あのとき二人に危険な車から降りてもらわなかったってことは、かなり認識不足だったのだが・・・。しかも、危険な助手席にはマナさんを乗せたままだった。
走り出すと、また煙が出始めたというが、臭いは無い。信号にひかかるたびに、発進できなくなるのでは。かっちゃんが、手の汗を拭うたびに「頑張れ」という・思いを胸に・・・。駅までは無事着いて、二人を下ろした。
さて、ここからスタンドまでが長かった。そこは、サティーの近くというのに。「まだ? 今どのへん?」聞くまいと思うのに、つい・口をついて出てしまう。ほんの・数分間の・はずだったのに・・・。
スタンドに入ると、女子職員がやってきた。事情を話すと、「オーバーヒートですねぇ。冷却水が無いんだと思いますよ。」ホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間。男性職員がやってきて、「液はありますんでねぇ、本田に持っていってください」ガーン!
「会社まで持ちますかねぇ?」 「大丈夫だと思います。」会社の位置を聞いて、スタンドを出た。このとき始めて、危機を感じたような気もする。
しかし、この車はもう修理するまでもない。あと2・3ヶ月で車検だし、寿命だといわれていた。時間をかけて車選びをしていたが、やっと前夜決まったばかりだったのだ。
「かっちゃん、豊田に行こうよ。本田と、どっちが近い?」 「そりゃぁ・豊田だよぉ」ってことで、会社に向かった。返す返すも、昨夜決めておいてよかった!
ところが、担当の職員は休みだった。「あのぉ、特に村上さんでなくてもかまいませんが、台車が欲しいんです。車は決めていますんで、どなたか・・・?」
しばらく待っていると、何と休みのはずだった彼が出てきてくれたのだ。
パッソの中古を予定していたが、そうも言っておれず新車を契約した。話をしてる間に、職員がシビックをみてくれたが、エンジンを開いてみないといけないと言われた。
とんでもない。そんなことにお金は使いたくない。台車は、三菱の「ギャラン」だった。
とにもかくにも、命を落とすことも無く台車にも有りついて安堵した。
かっちゃんは昨夜から、私は朝から。心臓がドキドキしたのはこの予知だったのではと話しながら、トラトラを迎えにツインタワーに向かった。当然、何の現象も起きなかったトラトラはくさされるはめに・・・!
3人そろうと、お別れもしなかったシビックにいとおしさを感じて・・・。
乾杯は、豊田の駐車場の片隅で、棄てられる運命を待つだけのシビックに思いをはせて、静かにグラスを合わせた。

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