「親とは、馬鹿なもの。」母の口癖が身にしみた。
長女にカニをせがまれて、店頭に売られている高いものを買って送っていた。
なのに、「皆美味しいと言ってくれたけど、私的にはちょっと薄かったように思う。リベンジしたいので、また送って」とメールが入ってカチンときていた。
たった5匹の親カにで、30人分の味噌汁を作ったというのだから当たり前だ。
数日後、愚痴を聞いていたOさんが安く手に入れて持ってきてくれた。心得たもので、数量もピッタシ。
「子供は平等に」の鉄則に基づいて、次女と三女にカニがさばけるかどうか・メールした。
すると、二人ともできるから欲しいという。
Oさんが届けてくれたカニは、まだピンピンしていて盛んに暴れていた。容器の中から飛び出して、家中をガサゴソ這い回ったらどうしようかと思うくらい。
さすがのトラトラも寝るときには、「カニがうるさい」と脱衣場の戸を閉めていた。
朝になっても彼らはまだ元気で、生きたまま届くようにと気を使って荷造りして送り出したのだ。
明くる日、9時前後だっただろうか?三女からは、「届いたよぉ。まだ生きてるよぉ!」と電話が入った。
自分では怖くて触れないから、Yちゃんに無理やり冷蔵庫に入れさせたという。
しめしめ、その騒ぎが聞こえてくるようではないか!
しかし、次女からは何の音沙汰も無い。仕事の合間に、「昨夜・ちゃんと起きとくようにって、メール書いたのに」とぶつぶつ言いながら電話してみた。
「それがねぇ、あまりにも早くつきすぎて・・・。そのうえ、ピンポンが壊れちょってねぇ」
寝ぼけ声で言いわけしている。「こらぁ、あれだけ起きとけって言ったでしょう!!岡山にはもう着いて、生きてるっって言ったよ」
「えぇっ?! 生きてるの? いやだぁ、怖いわぁ。」
それまでの寝ぼけ声は、一転して悲痛な叫びと変った。
「とにかく、早く電話して持ってきてもらいなさいよ。せっかく生きてるんだから・・・。」
「別に死んでからでもいいわ」と、不届きな返事を聞いて仕事に戻った。
そのやり取りを聞いていた患者さんたちと、笑ったり怒ったり・・・。
それから数時間後、やっと電話が入った。「届いたよ。しんどったわぁ、よかったぁ」と・・・。
やれやれ、がっくりだ。「でもねぇ、あんたが掴んだとたんに、動いたりしてねぇ」と脅かして、電話を切った直後。
「やっぱり、カニは生きていた」とメールが入った。そうでなくっちゃねぇ。こちらの楽しみが薄れるではないか。
しかし、彼女は友だちと飲みに出る約束してるから・当日は食べないという。
まぁ・張り合いの無いやつ。まったく「親心・子知らず」ってやつだ。
それでも気になって、また電話してみた。「で・あんた、冷蔵庫に入れた金?」
「ううん?まだ箱の中」 「それじゃぁ・カニがかわいそうだがねぇ」 「時々ふたを開けてやっとるわね。だけどこいつら、なかなかしぶといもん。」
こわごわ近寄っては、叫び声をあげる娘の姿は、自分そのものでおかしくてたまらない。
彼女の夫も怖がりだというから、しまつが悪い。
Yちゃん。命令されたとはいえ、生きてるカニを掴み、コーラまで外したのだから「あんたは勇敢だぁ!!」
美味しかった美味しかったと、メールや電話をもらうと、うれしくてたまらない。また送ろうかなって気分になる。
なんたって、騒ぎの好きなカーリーだもの!!

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