【鋳掛屋】 いかけや
仲間と、山行きの打合せをしていた。頂上でお湯を沸かして、即席の味噌汁を
数人分つくりたいのだけど、数人用の古いコッヘルに小さな穴が開いてしまった。
田中くん、持っていないかなぁ? うん、在るよ。
おばあちゃんの知恵としては、真綿をコヨリ状にして、その穴へ押し込んで、
反対側から引っ張り出す。ギュウギュウに引っ張り出す。
余った部分をカットしてライターで焼き切る。
それで、水漏れが直るはずだよ。
鍋釜が貴重品だった頃、今ほどアルミ鍋の耐久力がなかった。
すり切れたりして、小さい穴が開いた。
オヂサンがリヤカーに道具を積んで「イッカケヤァー、イッカケ、イカケッ」と
町内を回っていた。
呼び止めると、オヂサンはリアカーを停め、そこで座り込んで仕事が始まった。
穴の開いた鍋を空にかざし、穴の開いたカ所をチェック。
おもむろに鍋を木の台の上に置いて、人力ドリルで、穴を広げる。
その穴へアルミの小さなリベットを押し込み、鉄の台の上で、カンカン…と押し込んだ。
リベットの反対側をつぶす。出来上がり。
「うん、これでこの鍋は、また長く使えるぞ」
子供達はオヂサンの廻りを取り囲み、その手際の良さを感心したものだった。
高度成長と共に、この仕事はなくなってしまった。
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写真は、ネットから借りてきました。