柚月裕子『検事の信義』KADOKAWA 2019/4
佐方貞人シリーズ第4弾。これまでと同様に謎解きの面白さと登場人物の心理描写の巧みさがうまく調和している。主人公の佐方をはじめとする人々が自らの大事な物を守るために戦う姿が克明に描かれ、読む者に感動を与えるのも同じである。
人はともすれば忙しさやしがらみに負けて易きに流れてしまうものだが、そうでない生き方もあるということを改めて教えてくれる小説シリーズといえよう。
短編集であるが、第4話の「信義を守る」が秀逸である。
任官5年目の検事・佐方貞人は、認知症だった母親を殺害して逮捕された息子・昌平の裁判を担当することになった。昌平は介護疲れから犯行に及んだと自供、事件は解決するかに見えた。しかし佐方は、遺体発見から逮捕まで「空白の2時間」があることに疑問を抱く。独自に聞き取りを進めると、やがて見えてきたのは昌平の意外な素顔だった…。

シリーズ第1作『最後の証人』だが、検事を辞めて弁護士となった佐方貞人が描かれる。
2015年1月、上川隆也主演(佐方貞人役)でテレビ朝日で放映された。

シリーズ第2作『検事の本懐』、第3作『検事の死命』
2016年1月『検事の死命』、2016年12月『検事の本懐』がテレビ朝日でドラマ化され放映された。
『検事の本懐』では、佐方貞人の人間形成の過程を示す第3話「恩を返す」と佐方の父親(弁護士)がなぜ禁錮刑を甘んじて受けたかを解き明かす第5話「本懐を知る」が秀逸である。
さらに、『検事の死命』第2話「業をおろす」では、佐方の父親の13回忌の場で、佐方の父親が担った業が、関係者の前で明らかにされ、読者もまた重い荷を下ろすことができる。