熊田博著『良い食品には物語がある』風媒社 2019.9.10
名古屋市東区の赤塚に「熊野屋」という食料品を扱う店があり、著者の熊田博さんはその主人である。そして、今までの経験と知識を活かし、
@「安全で安心して食べられること」
A「ごまかしのないこと」
B「味の良いこと」
C「品質に応じて価格が妥当であること」
という〈ものさし〉で本当に良いものを探し出し、店に並べるという努力をしてきた結果、この本を出版された。数日前の中日新聞に載っていたので、早速手に入れて読んでみた。食品に対する蘊蓄と厳しい目によって厳選された銘品が紹介されている。
「熊野屋」は、江戸時代の名古屋城下より信州に向かう旧「善光寺街道」沿いにある。「熊野屋」より西の地区(白壁地区)は江戸時代武士の屋敷があり、その周囲には職人(鍋屋町)の街があった。
「熊野屋」の先祖は、江戸万治年間に美濃より今の名古屋城下に移住してきたと言われ、享保年間(1716-36)には油商を営み灯油の需要も増え、名古屋城に納めるなどの商売をしていたという。
店内奥の旧土間に先代が整備された「油屋の資料室」があり、江戸時代よりの資料を展示している。明治になり灯油の原料が菜種油などから石油に移行後は、植物油と共に石油などの鉱物油も販売していた。大正・昭和と同じように商売が続けられたが、太平洋戦争では被爆し、一部旧家屋(棟木に天保四年の文字が残る)を残し、大きな被害を受けたという。
現在は灯油などの鉱物油の販売は止め、植物油(胡麻油、オリーブ油等)中心とした良質な油と良い食品、伝統食品、オーガニック化粧品などの販売を江戸時代より同じ場所にて約300年続けている。
明和高校の時には、生徒を連れてよく先代のおじいさんの話を聞きに行った。まち歩きの会でもよく訪れたものである。
「油屋の資料室」に展示してある資料の主なもの
〈油屋鑑札〉 江戸時代の油商の免許証
〈申合〉 木製の店方規則
〈勘定帳〉 江戸時代の店帳簿
〈古地図〉 熊野屋周辺地図(旧善光寺街道)
〈御用旗〉 木綿製の尾張藩(名古屋城)御用旗
〈のれん〉 店用の木綿製紋付きのれん
〈油徳利〉 陶器製油用とつくり
〈油用枡〉 桐製油用枡(ます)
〈行灯〉 木製紙張り行灯(あんどん)
〈燭台〉 黄銅製簡易燭台(しょくだい)
〈看板〉 明治以降の木製看板及び琺瑯製看板
その他、江戸、明治、大正、昭和の油屋の資料
