米澤 穂信『Tの悲劇』文藝春秋 2019/9/26
最近はなかなか忙しくて本を読めなかったが、ノルマの仕事がひと段落して時間が空いたので気軽なミステリーでも読もうと手にしたのがこの本である。
この著者の作品は、先日『満願』を読み感想を載せたが、軽いタッチでシニカルなテーマに切り込んでいくという感じを持っていたが、本作もまさにその通りの内容であった。
地方都市・南はかま市の一隅を占める無人の集落跡・蓑石に定住者を呼び込むべく行われた「Iターン計画」の顛末を描く短篇ミステリーの連作集である。
全国から応募してきた思惑を抱えた移住者達が生活を開始して、住民同士の交流も始まったが、荒廃し危険な場所も多く、馴染めなかったり、住民同士のトラブルがあったりで次々と村を去っていき再び無人化してしまうまでを描く。
ただ、一話毎に市役所「蘇り推進課」万願寺が集落の中で解決していく謎解きが面白く、まじめな公務員ならこういう対処の仕方をするのだろうと納得もした。
最終章で、なぜ住民のトラブルが起き、再び無人化したのかという謎解きが行われる。
移住者が住む場所次第ではインフラやサービスの維持費用がかさむので、かえって市政が弱体化しかねないといった行政から見た視座は、今日、日本のどの地域でも地方行政の抱える問題を浮かび上がらせていると言ってよい。