山尾三省『原郷への道』(120p)
「じゅず玉草」
何年か前に、妻がじゅず玉の実を獲ってきて、それを自家の畑のわきにまいた。
次の年からそこにじゅず玉草が育ちはじめ、その植物は多年草であるから、年々に株が大きくなり、春は春でその立派な葉の姿を眺め、秋は秋で灰紫色や黒色に熟れる小さな実を眺めて楽しんできた。・・・
その頃、ふと思いついて、普段じゅず玉と呼んでいるものの、その本当の和名は何というのだろうかと、植物図鑑で確かめてみた。『牧野植物大図鑑』によると、その和名はジュズダマで、地方によってズズコ、トウムギとも呼ぶとある。また古名はツシダマ、タマヅシ、ツスともいうそうである。熱帯アジア原産とされているが、古名まであるからには太古の時代から日本にも入り、有用な草でもないにもかかわらずその特異な固い実のせいで、タマ、玉、魂(たま)、霊(たま)にかかわる呼び名をもって日本人に親しまれてきたものだということがわかった。・・・
和名にしろ学名にしろ、あるいは地方々々の呼び名にしろ、植物の名前というのは基本的には民俗学のカテゴリーに入るものだと思う。植物の呼び名というのは、そのまま植物と人間との永くかつ親しい触れあいの記憶であるから、それ自体が民俗学なのである。・・・
秋も深まりようやく黒と灰紫色に熟れてきたじゅず玉草の実を眺めていると、それだけで限りない豊穣の内にあることを、あらためて感じないわけにはいかない。
【感想】こういう感性の豊かさを日常の生活の中で保ち続けていきたいものだ。

じゅず玉草の花

じゅず玉草の実