森谷明子(もりやあきこ)『涼子点景1964』双葉社 2020/1/25
1964年東京オリンピックを間近に控えた東京を舞台に、謎多き少女・小野田涼子にスポットを当てて様々な視点から描いたミステリーである。
一話につき一人を主人公にし、何らかのトラブルに遭遇するのだが、涼子との関わりによって解決へと結び付いていく。一番の謎は涼子なのだが、彼女の身に何が起きたのか物語の展開と共に少しずつ明かされていく構成である。
貧しい生い立ちを受け入れ、泣いてもどうにもならないからと涙をこらえ、何が起きても一貫して聡明で強い意思を持った涼子が魅力的に描かれる。
1964年オリンピックの年、私は中学2年生であったが、作品の中に描かれる人々の暮らしぶりが懐かしく、当時の中学生活や社会状況を思い出しながら面白く読んだ。
また、1970年前後に新宿を拠点に生活していた私には、代々木(作中では霞ケ丘となっている)の国立競技場やオリンピック会場周辺、千駄ヶ谷や内藤新宿などはずいぶん懐かしく、作品世界の中にすんなり入り込むことができた。
著者について
1961年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
2003年『千年の黙 異本源氏物語』で第13回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。その他の著書に『白の祝宴 逸文紫式部日記』『望月のあと 覚書源氏物語「若菜」』『緑ヶ丘小学校大運動会』『れんげ野原のまんなかで』『花野に眠る 秋葉図書館の四季』『南風吹く』『矢上教授の「十二支考」』などがある。