相模湾の深海、水深1000メートルに地元漁師から「クロッチョ」と呼ばれるタラ科の魚がいる。
正式な名を「イバラヒゲ」と言うのだが、ベニアコウ狙いで釣りをしていると、真っ黒なやつやグレーっぽいこいつが本命外でたくさん掛ってくる。
でも、その魚相の悪い顔、ナマズのような尾、蕎麦の実のようにボロボロしているウロコなど、見た目の悪さからクーラーボックスへ入れて持ち帰る人はまずいない。漁師すら食べりょうの1、2匹を残すのみで、あとは海へ捨てているのだ。
しかし、クロッチョはクセのない白身をしていて、旨いのである。フライにしたら誰もが美味しいと言うし、鍋にしてもいける。
ただ、市場に卸してもキロ100円もしないか、値が付かないだろうと言われている。
そもそも水深1000メートルの漁をする漁師はごく少数だから、見たことのある関係者も少ないし、市場へ魚を買いにくる料理人だって、これを初めて見たら調理してみたいとはまず思わないだろう。
しかし、一日ベニアコウを釣っていれば10匹前後は釣れてしまうこの魚、持って帰っても処理に困るし、ひじょうにもったいない。それに、魚資源が枯渇しているのに、これほど釣れる魚はめったにない。
そう思って、旅館の主人に一匹提供して使えないかためしてもらったが、やはり料理人がいやがってダメだった。でも、フライやフリッターにしたり、塩ダラ風につくって、カワイへ持ち込んで雑炊の具や湯豆腐にしてもらったらこれらは大好評。市販のタラより格段に旨い。
また、クロッチョの大型は3キロ以上のものもいるし、たっぷりした白身がとれる魚は種類が少ないから、洋風料理にも向いているハズ。春にはタラコのような大型の卵も入っている。キロ数100円以上してもおかしくないんじゃないか、それならこの漁をしてもいいと考えていた。
そんな中、ある食品加工会社に話をもちかけたところ、意外にも話がトントン拍子に進み、新規商品として売り出すことになったのである。輸入魚ばかりの現状から、地産地消へ意識が変わりつつあるようだ。
それからためし釣りを7、8度やり、メーカーで試作品を造ったり、試験所に持ち込んで水銀含有量やPCB汚染がないか調べたりしたが、最近どちらも合格点となったのだ。
そこで、ネーミングやパッケージのデザイン、価格設定などまだ決まらないものもあるが、そろそろ本格的に釣ってきてください、となったのである。
で、一昨日、昨日と釣りに出たわけだが、これまでで釣れたのが一日で最高12キロだった。これでは燃料代にしかならなかった。ひどいときはたった1匹というのが二度もあって、これで仕事になるのだろうか一抹の不安もあった。
いくらでも釣れるとふんでいたのに、いざ本命として釣ろうとすると釣れないのがまあ釣りというものでもある。しかし、ついにやりましたよ。一昨日は20キロ、昨日は5回仕掛をおろして19匹で、28キロだ。クロッチョにもよく釣れる場所、ポイントというものがあったのだ。
しか〜し、これからという肝心なときに大型リールが壊れてしまったのだ。これが無いと釣りができない。引退した漁師さんから深場釣り用の巻き上げ機を譲り受けているから、これで代用しようかと思うが、一度も使ったことがないし、リールとサオに慣れているから大変不安。
いつも、アイデアだけはすばらしいのだが、継続や維持することが苦手な私。
さてさて、どうなりますことやら・・・。
写真は買い物ついでにスーパー駐車場のすみっこから。

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