初めて出合ったノウサギの屍骸/
もう10年近くになるだろうか、リス観察を始めた頃のコンデジで撮ったノウサギ屍骸写真である。
このあたりのことを話すと、もうすでに懐かしくもある。
時の流れとはほんとに早いね。上の写真を撮った後にボートから漁船に乗り替え漁師になったし、釣り船も始めた。私の流転も終わるところを知らぬよう。
この2年間だけでみても苦手な植物の名覚えに夢中になり、また眼底出血し、船も壊し復活もした。こうまで変化するとは自分でもまったく予測できぬこと。
というか、そもそもなんで海のボート釣りキチが森の野生動物を観察するのか、猟師でなく漁師がカメラをかかえて森へ行くか、自分でもちょっと不思議。そのあたり少し紹介してみたい。
白銀林道へは東京から引っ越してきた20ン年前頃からよく登っていた。
林道は海からいきなり立ち上がった箱根火山の外輪山の中程にあり、我が家からクルマで10分の距離。
ここへ上ると海が一望でき、伊豆七島がおいでおいでするいい景色。人と一人も出会わないなんてことがあるぐらい静かなのもよい。
私は小さなボートで視界の限り走り回って釣りをしているから自分の領地を天守閣からながめる殿様気分でよくこの林道へ通っていた。まあ、海関連の原稿を書くとき、ここへ来てぼんやりアイデアを練ったりしていたのがホントかも。
また、林道には野いちごやイタドリなどがあり、生まれ育った田舎の自然の臭いがあった。最初はこれだったかも。
そんなある日の林道でのこと。一人のんびり散歩しているとき偶然一匹のリスに遭遇した。驚いて息を止め固まっていると、目の前2メートルの枝をゆっくりと渡って林の中へ消えていった。
びっくりしたなんてものではない。
まず思ったのが、ペットが逃げ出したか噂に聞くタイワンリス。
しかしネットで調べてみたらどうやら野生のニホンリスのようであった。だが地元の知り合いや農家の老人に聞いても誰もリスの存在を知らないと言う。
そうなるとますます調べたくなるではないか。そこからリス探しが始まり、それが嵩じて身近な森の野生動物探索へと展開してゆく。
もともと海釣りを始めたのが陸地を一歩離れれば大人が夢中に遊べるほどの野生が残っていると知ったから。海の魚は人間がエサをやらずとも育ち、大物ほど利口でハリに掛からない。人間は邪魔な存在でしかない。だから対等で本気になれる。
しかし、身近な森は人間が破壊しつくし、もう野生など残ってないと思い込んでいたのだ。
そしてリスにもう一度合えないだろうかと森へ足繁く通うようになったある日、多数のトンビが一箇所に集まり空を低く舞っているのに気づいた。
釣りキチの知識として海鳥が舞う鳥山があるときは下にエサのイワシがいるときである。何かあるなとピンときて、トンビの舞う真下、林道脇の林の中へ入ってみた。
そしたら驚いたことに写真のノウサギの屍骸がころがっていた。
これを見てまず思ったのがなにかの病気で死んだこと。ひょっとして伝染病かもしれない、気持ち悪いナと感じたのである。
ニコンD300の前のD70をまだ購入する前だから、野生動物の知識はほとんどゼロ。ノウサギだってそのころ初めて目にし、始めペットが逃げ出したのだろうと思っていたほどなのだ。
でも、これを写真撮影し、その後テンやイタチ、ノスリなどとも出合い、このノウサギが病気でなく何者にやられたのだけは分かるようになったが、しばらくはそれが誰だか推理すらできなかった。
しかし、久しぶりにあらためて写真を見、テンやイタチでなくノスリかクマタカなど猛禽に襲われたものではないかと思った。
以前、クマタカに襲われた子ウサギの写真を載せたが、首なし死体で、後足2本が大部分の身を削り取られ骨となって残っていた。
この写真をアップで見ると、頭は胴体の下敷きになっていて、前足部分と首周りの毛が抜かれている。
テン糞の中身には足の骨などバリバリ噛み砕いた残骸があるが、これはクマタカのときのように細い前足の骨を残し、身だけを食べている。
これからまず猛禽の仕業だろうと推測した。
でも、人が通る林道脇ではクマタカはないかもしれないし、オオタカには荷が重いはず。だからこの犯人は一番数の多いノスリではないかと思いはじめたのだ。
まだ血のしたたる新しい屍骸。私が行ったから放棄したか、それともトンビに追われたか?
この推理、どうだろう?
もっといっぱい現場を見なきゃね。

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