「空手やらんか?」
同じ中学出身のF川ちゃんが突然そう切り出したのは、高校の入学式からまだ1週間も経っていない頃だった。
実は知り合った頃、オレはあまり彼が好きではなかった。
理由は簡単&理不尽。
単に彼が当時オレが気に入っていたS尾さんと仲が良かったのが羨ましかっただけである。
その後修学旅行で共通の友人を通して彼と初めて言葉を交わし、以降オレは彼をすっかり気に入った。
決してS尾さんを諦め別の女性と付き合い始めたからではない。
「へ?どしたのよ急に?」
「いや、実はな・・・。」
驚いた。
それはオレが何も知らずにゲーセンで遊んでいた夜の事。
天体観測が趣味の彼は5千円をサイフに入れ、前述した崇高なる趣味に関する高価な本を買おうと近所の書店へ自転車を走らせていた。
途中、工事現場の横を通り過ぎようとした時、悲劇は起こった。
工事現場近辺に溜まっていたヤンキー数人に囲まれた彼はあっという間に5千円を奪われてしまった。
失意の中、彼は・・・そのまま書店に走った。
残された全財産で買った本のタイトルは、「攻撃空手」。
「強くなりたい!」
彼は近所の空手道場の門を叩く事を誓った。
しかしやはり一人では心細い。
次の日学校へ行った彼は一人の少年を見つけた。
同じ中学出身で、今度同じクラスになった。
確か吹奏楽部の貧弱君で、標準語のせいもあり、「オカマ」などとからかわれていたところも何度か目撃した事がある。
彼は「オカマ」を誘うことにした・・・。
「オカマ」の本名は白石賢志といった・・・。
つづく

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