(注)今回、特に後半部分は谷津小に通った方でなければ全く楽しめない「地元ネタ」になっております。え?ここんとこずっとそう?ごめーん。
それはまさに奇跡の様な日だった。
10年振りの再会の場所は、津田沼駅の前だった。
「シラケ〜ン!」とオレを呼ぶ声と、「とんび!!」というオレの声は、ぴったり同時に響いた。
目の前を黒いいかつい車が走り抜ける。
え?
走り・・・抜ける・・・の?
駅前は混んでいた。
とんびの車は50mほど先の赤信号に停まり、オレはそこまで走った。
ドアが開き、オレはそこに飛び乗った。
「よう!ひさしぶり!」
えらくドタバタだったが、実に10年振りの再会だった。
オレ達はお互いの「あれから」を語りながら、しばらくドライブした。
「キム呼ぼうか。」ととんびが言った。
「あのキムちゃんか!」
懐かしい名前だった。
キムちゃんはファミコンマガジン見せてもらったのがきっかけで仲良くなって、確か家には藤子不二雄のサインがあった。
藤子不二雄がコンビ別れしたと教えてくれたのも彼だった。
確か3年の時に体育倉庫で遊んでて、佐藤君なんかとモメて・・・その事で多田先生が学級会を・・・ってなんなんだおい!?
なんでこんなに一瞬で思い出せる!?
「はい、キムだよ。」と、とんびがケータイを渡してくれた。
「・・・やぁ、キムちゃん?」
「んん?誰?」
「わかんないと思うよ。4−3に3人ケンジがいました。とんび、アナケン・・・。」
「まさかお前は!!白石賢志!?」
こん時!嬉しかったぁ!!ほんまに嬉しかった!
なんかクセのあるキムちゃんの口調が懐かしかったから。
一発でわかってもらえたから。
けど、一番嬉しかったのは、キムちゃんが嬉しそうにオレの名前を言ってくれたから!
その後の展開は、まさに奇跡だった。
とんびが電話をかけた相手が全員繋がる。近くにいる。
みんな今から会える。みんな会ってくれた。
すごい!こんな日があるんか!
元々、その日たまたま自衛官のとんびが昼間空いてた、ってだけで、充分奇跡だった。
同時にオレの頭の中ではもうひとつの奇跡が起こっていた。
誰がどんな落書きをして、誰が怒ったとか。
誰がどんなミニ四駆をやビックリマンやキンケシやゲームを持っていたとか。
次から次へと、誰かと会う度思い出す。
ダムが壊れたかのように、記憶が蘇って来る。
それを話すと、みんな目を丸くして「なんでそんなに覚えてるの!?」と驚いていた。
別に「記憶力が良くなった」という奇跡ではない。
記憶力は元から良かった。
中学の時、好きなテレビの話を誰かがしている時、そいつが微妙にセリフを間違えるのにイラッとした。
ラピュタの呪文なんかすぐ覚えた。
残念ながら地理と歴史には活かせなかった。
それはいい事ばかりではない。
「思い出し笑い」もしたが、「思い出しギレ」も「思い出しブルー」もよくある。
二度と思い出したくないような事を急に思い出して、「うわっ!!」と頭を抱える事もしょっちゅうだ。
(とか書いてるたった今も、2号棟の芝生でむっちゃん(あおいむつお君)が失くしたビックリマンの聖フェニックスを一緒に探した事、その時むっちゃんが何度も「セントちゃんどこかいっちゃったわ。」と言っていた事とか、むっちゃんが引っ越して行く日の事とか思い出している。オレ、頭おかしいんか?)
そっか・・・。
よぉくわかった!
オレはこの街に住んでいた時の自分が大嫌いだった。
なんでこう・・・もっと人と仲良く出来ないのか、いつも悩んでいた。
「いい子になろう」なんて何度決心したかわからない。
あの苦しんでいたオレ自身を、オレはこの街に封じ込めていたんだ。
あの頃、周りの大人達はオレを、「いじめられて登校拒否してる」と言った。
守ってもらえるから、それに甘んじた。
卑怯だった。
「ちがう!オレが悪いんだ!」と・・・言いたかったんだ・・・。
とんびと会って、キムちゃん、ともちゃん、ナオト、あったくん、きんこ、かなむらくん・・・みんなに会えて、よくわかった。
オレは思い出したかったんだ!
会いたかったんだ!
胸の痛みが消えた気がしたのは・・・次の日の朝、気のせいだったとわかった・・・。
ただ、思い出したくも無かった子供の頃の自分自身の事を、受け入れてやれたのは、気のせいではなかった。
この街でずっと、「まだだめ?まだ許してもらえない?」と泣いていた子供の頃のオレを、ようやくオレは迎えに来てやれた、な〜んて、ちょっと、いや、かぁなぁりクサイけど、そう心から思えたんだ。
そして3日が過ぎた。
道場からは、「胸の骨折ひどいんか?帰ってこれんのか?」などと心配の電話を頂いたが、なんのことはない。しっかり楽しんでいたのだ。
2日目も3日目も4日目も、とんびは基地を出て来てくれた。
その間、懐かしい再会もあったし懐かしい電話ももらった。
一人の時は街の中を歩き回った。
谷津干潟やららぽーとまで歩いた。ケガ人なにしてんねん。
思い出は色んなところに落ちていた。
考えてみたら・・・なんておもしろい街だろう!
駅の出口、どちらから出るかで全然違う街になる。
片や畑。片や歓楽街!
おいおい・・・オレは風俗店の横を抜けて歯医者に行ってたのか?
パルコの前の女の人の顔の像は、怖い!
駅前のブロンズ像、服着ろ!
生まれて初めて入ったマクドがまだある!そういやグリマスとかバーディとかビッグマックポリスとかハンバーグラーとかどこ行ってん?
最近ドナルドしか見んぞ?
・・・まぁそれはええわ。
エキゾチックタウンてどないなネーミングやねん!
管弦楽のポスター?
この指揮者、田久保先生!?先生辞めたんやなぁ・・・。
駅と繋がる階段、なんで滝があんねん!
確かここから富士山見えたな・・・ってなんや!?あの造りかけの高速道路みたいなんは!?(後にザウスと判明)
ガキの頃、普通に「ぶっしぶ行って来る〜!」とか言ってたけど、「物資部」て!それほんまに正式名称やったんか?
子供の頃、確かもうひとつ、よくお菓子買いに来た店があったな・・・。
ここや!・・・ってここ、独身寮!?売店!?めっちゃ部外者ちゃうん!?
JRの社宅・・・めっちゃ車庫の横やん・・・よぉ眠れたなぁ・・・。
公園の横の設備、入ろうとも思わんかったけど、子供の頃これが何をする場所か全く気にせんかったオレってどうなん?
カラス神社・・・は怖いしええわ。つっこまんとこ・・・(死体が出た話はこの前日に初耳)。
どうでもええけど坂道多いなぁ・・・。
・・・で、学校!!
つっこみ出したらキリないけど、行くでぇ!!
飼育小屋、でかっ!!
幽霊便所て!!せめて電気つけようや!
廊下にかかってた日本地図!山とかちゃんとデコボコしとるやつ!あれちょっと欲しい!
理科室の標本は風化が始まっとる!!
体育館でやった「怖い話集会」!そんなん他の学校で聞いた事ないわ!
あの時先生がした、「悪いのは・・・お前だ!!」って話、オレしばらくトラウマになったわい!
「音楽集会」も特別な感じやった・・・。
田久保先生、低学年に見せる顔と高学年に見せる顔、違い過ぎんか?
「犬のおなか」と「気球に乗ってどこまでも」と「あくび」と「友達の歌」と「Sing」と「管弦楽部のお弁当の歌」が結構歌えてしまう自分がこわいぃぃぃぃぃぃ!!
「ピロティ」の正確な和訳を誰か教えてくれ!!
グラウンドのトーテムポールは怖すぎる!埋め込まれたタイヤの存在意義は!?てか岩石園て!!
そして今はもう無い「冒険小屋」!!あれ・・今思えば危険過ぎるぞ!
マラソンで給食室の横を走る時はスタミナ消費が著しい!!・・・・のにすぐ「十週〜!」とか言う鈴木先生!口元が小鳥みたいな鈴木先生!!
バザーで毎年売ってた割り箸で出来たゴム鉄砲は誰が作ってたんだ?
だあああああああああああああ!!
おもしれええええええええええええええ!!
この街は・・・・・最高だああああああああああああ!!
えっと・・・この日のオレが、いかに里帰りを楽しんでいたか、おわかりいただけましたでしょうか・・・?
オレはなんとも言えないしあわせな気分でとんびと再会を誓い、改札を抜けた。
「じゃぁ、元気で。」
「おう!同窓会、実現しような!」
実はこの時、道場の会議ではオレが帰ってきたら少年部の指導員に就任させる事が決定していたのだが・・・
そして同窓会はこの半年ほど後に実現して、次の夏にオレは「自分の腕の中で人が死にかける」というとんでもない体験をするのだが・・・
さらに、この時からほんの数ヵ月後に、誰かが道場から去る事になるのだが・・・
それはまた、別のおはなし
最終話に、続く。

1