お風呂に入っていた時の事。
栞里の様子が、いつもと違った。
いつもなら、ずーっと喋りながら、お風呂のオモチャで遊んでいる。
しかし今日は、喋らずに黙々と遊んでいたの。
こういう時は、栞里は何か考え事をしている事が多い。
そんな栞里の事をなんとなく気にかけながら、私は頭を洗っていた。
すると突然、栞里が小さな声でつぶやいた。
「最近、一緒に遊んでくれないの。」
どういう事だろう。
シャワーを止めて、一旦、栞里の声に耳を傾けよう。
「お母さんが最近、お風呂の中で一緒に遊んでくれないよっていう事かな?」
「違うの。幼稚園でね、最近ね、お友だちが一緒に遊んでくれないの。」
やはり、大事な話だった。
「お母さんに、どんな風なのか教えてくれる?」
「栞里ね、●●ちゃんと最近遊んで無いの。●●ちゃんはいつも■■君と遊んでるから、3人で一緒に遊ぼうって誘ったの。でもね、■■くんが、ダメって言うの。」
「そうかぁ、ダメって言われたのね。それで、他のお友だちとは一緒に遊ぶの?」
「ううん。最近みんな遊んでくれないの。だから栞里ちゃん、寂しいの。」
ええっ!?みんなが遊んでくれない!?どういう事!?
…いや、待てよ。
4歳児にとって「状況説明」は難易度が高い。
まだ丁寧に聞いてみないと分からないな。
「そうかぁ、それは寂しいね。だ〜れも一緒に遊んでくれないの?」
「違うよ。▲▲ちゃんは遊んでくれるよ。でもね、◇◇ちゃんや◆◆ちゃんとは、最近遊んで無いの。」
「そうなんだね。◇◇ちゃんや◆◆ちゃんには、一緒に遊ぼうって言ってみた?」
「うん。心の中で言ったの。」
お。話の展開が変わってきたぞ。
「心の中で言っただけで、声に出して言ってないの?」
「うん。恥ずかしくなっちゃって、言えなくって、心の中で言ったの。」
「そうかぁ、恥ずかしくなっちゃって言えなくなっちゃったんだね。お母さんも幼稚園の時、一緒に遊びたいって言えなかったから、同じだねぇ。なんか恥ずかしくなっちゃうんだよね。」
「そうなの。でもね、やっぱり一緒に遊びたかったから、頑張って■■くんに、一緒に遊ぼうって声に出して言ったの。でも、ダメって言われたの。」
「そうかぁ、ダメって言われちゃったんだね。寂しかったね。」
そしてギューッと抱きしめる。
とりあえず、ここまで話すのに結構時間がかかってしまい、長風呂に。
一旦お風呂から出る方向に。
「お父さんにも、話してみる?」
「うん。お父さんにも聞いて欲しい。それから先生にも聞いて欲しいから、お便り帳に書いて欲しい。」
「じゃあ、お便り帳に書くかどうかも、お風呂から出たら考えてみようか。」
今日はもうお餅様が帰って来ているので、とても有難い。
お風呂から出て体を拭き、私はお餅様に声をかけた。
「お父さん、栞里からね、大事なお話があるんだけど、いいかなぁ?」
「うん、どうした?」
そして私はそのままの流れでテレビを消した。
栞里は私に話したように、お餅様に話していった。
お餅様はしっかりと栞里の話を聞き、栞里も丁寧に状況を説明していた。
その間に、私はパジャマを着たり、髪を乾かしたり、早苗のお世話をしたり。
そして栞里はお餅様と色々話し込んでいった。
…と、しばらくして、早苗が眠気で限界に(^◇^;)
もうすぐ8時だもん、そりゃ眠いよね。
とりあえず私は栞里に説明し、早苗と一緒に寝室に向かった。
早苗に添い寝で授乳していると、栞里とお餅様が話している声が、ぼんやりと聞こえてきた。
そしてちょうど8時になったところで、栞里が1人で寝室にやって来た。
「もう眠いからね、栞里ちゃんも寝に来たよ。お父さんはまだ起きてるんだって。」
そう言うと、栞里はいつものように布団に潜り込み、私にくっ付いて私のヒジを触った。
少し話し、おやすみを言って、しばらく沈黙。もう寝そうかな?というところで、再び栞里が話した。
「栞里ちゃんね、寂しいの。どうしたらいい?」
「そうね…。」
こういう時、なんて話してあげたら、栞里が前進しやすくなるかな。
大事なのは、共感してあげる事。
しかし今回は栞里がもっと私の意見を聞きたがっているので、私の体験を交えて話してあげても良いのかもしれない。
私はしばし考えてから、話し始めた。
「そうだね、お母さんは小学生になっても、なかなか一緒に遊ぼうって言えなかったよ。それだけじゃなくて、話しかけたくても話しかけられない時があったよ。
でもね、とっても優しいお友だちがいてね、お母さんに、一緒に遊ぼうって言ってくれたの。
けれどお母さんは、本当は一緒に遊びたかったのに、恥ずかしくって、ダメって言っちゃったの。」
「それでお友だちはどうしたの?」
「分かったよ、また遊ぼうね…って言ってくれて、また次の日も、誘ってくれたよ。」
「そのお友だち、優しいよねぇ!」
「そうね。なのにお母さんね、次の日も恥ずかしくてダメって言っちゃったの。それでもお友だちは、また誘ってくれたの。それでもお友だちは、分かったよ、また遊ぼうね…って言ってくれたの。
そうやって誘って貰っているうちに、お母さんは恥ずかしく無くなって、一緒に遊べるようになったんだよ。」
「じゃあ栞里ちゃんも、また遊ぼうねって言ってみようかな。」
「そうね、言えそうだったら、言ってみると良いかもね。」
「早くお友だちに会いたいから、早く明日にならないかな!」
そして栞里は、私に抱きついて私のヒジを触りながら、眠った。
栞里に相談して貰って、私も色々考えたけれど、今はとても「良い機会」なんだと思う。
そう、栞里が人間関係を学ぶ為の、とても良い機会。
ここで私がしゃしゃり出て、栞里が学ぶ機会を奪ってはいけない。
あるいは私が関心を持たず、栞里が孤独になってしまう事も避けたい。
程良く共感し、寄り添ってあげたいな。
そして栞里が大きく成長していっても、「お母さんには話したいな、聞いて欲しいな」と思ってくれた時にはしっかり聞いてあげられるように、良い関係を心掛けていきたいな。