「Paul Weller/catch-flame!」
music(UK)
や〜。そうだろうと分かっているつもりでいたけど、今のポール・ウェラーの充実ぶりはやっぱりすごいです。
まず、今どき視覚を排したライブアルバムを、しかも2枚組で出すとは。ましてかの人は、すでに前々作「Illumination」発売時期に行ったハイドパークでの野外ライブとBBCでのアコーステックライブを合わせた非常に安くてお買い得なDVDを出しているし、その後も「ライブ・アット・ブレイヘッド」というDVDも出している。というわけで、ミュージシャンのライブも視聴覚時代であることを否定しているわけではないし、今改めて良き時代の「耳で想像して欲しい」ライブアルバムの再現をとか、アナログ時代への愛情から現代的なもののアンチテーゼとして提出するとか。そういう理由からではないのだなぁと、この充実ライブを聞いて再認識しました。そんな風にどこかでうがっていたのはむしろ一ファンの自分の方でした。
この作品、今のポール・ウェラーバンドの楽曲と演奏への自信が結実化されていることが純粋に嬉しく思って出したんじゃないかと思います。実際それだけのエネルギーとパッションがあるし、そして同時にもはや「若書き」のような演奏じゃない。R&Bベースのロックンロールのラフさとともに、演奏にゆるぎない安定感があります。そして何よりタイト!(そこが好き嫌いの分岐点かもしれないけど)
次に思うのは、この熱情と若々しさとともに、過去の偉大で良質なロック/ソウル/ポップスへの敬愛にもとづく演奏をしている人がすでに熟年を迎えようとする48歳の人のものであること。これが凄い。現代の体力的・精神的に強い48歳ってこんなに若いの?という驚きみたいなものがあります。このライブパフォーマンスを聴いて改めてそんなことも感じ入ります。むしろ逆に若返り化しているとさえいえるか。いや、基本的には変わっていない。そこが凄いのだけど。それでも、一時渋い路線を探求していた節もあっただけに、この吹っ切れ感もなかなか稀なものだろう、という感じです。
バンドを支える元オーシャン・カラー・シーンのベース&ギターのミュージシャンとしての技術、特にギターのスティーヴ・クラドックのスキルには本当に感心するところで。彼らの存在のおかげもあって、ポールも本当にいま自分のポテンシャルを存分に発揮できているのではないかしら。
特にCD1枚目の2曲目にウェラーの作品でも僕の大好きなパワフルソング、「Out Of The Sinking」がイキナリ登場するのには驚いた。その後も今までの映像などのライブではハイライトに持ってくるようなハイテンションな曲が立て続け。
アルバム冒頭のイントロのリズムギターは思わずThe Jamを思わせるけど、その曲の展開はアーシーなロックの趣があるのがソロになってからのポール・ウェラー。特に前がかりな熱い演奏の中にあっても、どこか60年代サザン・ソウルを思わせるところもあって、オーセンテックなR&Bベーシック・ロックミュージックの王道を彼は走っているんだなぁと。やはりザ・フーや、スモール・フェイセズの流れを汲んでいる人なんだと改めて思う。「Peacock Suit」なんてどこか故・ウィルソン・ピケットの「ムスタング・サリー」を思わせるんだよね。
The Jamの曲もスタイル・カウンシルの曲も原曲に忠実にやっているけれど、それがまた違和感ないんですよね。本当にバンドを名乗っていたときから一貫して良い曲を作ってきたんだなぁと思うし、当時とほとんど変わらないどころか、むしろ当時にはまだ足りなかった演奏力をグレードアップして、一層チューンナップした感じがある。これだけ粒だった楽曲群なので、「Long Hot Summer」だけ、ちょっと流れの中では違和感がなきにしもあらずだけど、ギターだけで当時のスタカンのキラキラ感と高揚感を発揮させた「Shout To The Top」にはホント、感心した。スティーヴ・クラドックの存在は本当に大きい。「In the Crowd」で聴かせるギターも本当に素晴らしいし。「悪意という名の街」が本編ラストなのは、おそらく今のウェラーのライブでは一貫してそうだと思うけど、やはりライブラストの盛り上がりにはこの曲だよな、と再確認。
ああ、こんな素晴らしいライブなら本当、今年の来日はぜひ見ておきたかったな!間違いなく充実期にある自分たちの自己証明のようなライブ。しかも会場はワン・ナイト・オンリー、その日限りのものでこれだけの演奏とは!
考えて見れば、最初の話に戻るけど、ウェラーって一般常識的には余りセールスを見込めないと思われるライブアルバムを、アコーステックライブ作を含め、ソロで過去2枚出しているんですよね。スタイル・カウンシル、ザ・ジャム時代にも出している。ロックンロールというのかな、そういう立場でのミュージシャンのありようとしてこうありたい、という姿勢を感じますね。そこも本当に王道を走っているようで素晴らしいです。
スタジオ盤はイマイチという人にはこのライブが却っておすすめです。ポール・ウェラーの本質、ここにあり!いや、マジにロック・ライブアルバム史の中に数えられる一枚になり得るのではないですか、これは。情熱部門、ランク高し。大音量で聴きたい一枚。
PS。
とってもナイスなブログを発見。ぜひご覧になってくださいませ。というか、俺もこれから少しずつじっくりと読ませて頂きます。
http://monoplus.exblog.jp/i11