12月17日、今にも雨が落ちそうな曇天のもてぎ、今年最後のレース、FJマスターズの開催。
朝8時から予選が始まる。
冷え切った路面の幅一杯にウェビングする色とりどりのマシン達。まず、目星い車番のカラーリングをチェック、シードのカラーはしっかり確認。同じチームカラーとの識別のために、ヘルメットやスポンサーステッカーもチェック。各地方戦上位選手も抜かりなく。次いで、場内アナウンスが読み上げるタイムを聞きながららコーナリングをチェック。大体いつもそんな感じ。
お目当てのマシンや気になる選手が、目の前でアクシデントに見舞われたら一気に気分は落ち込んでしまうから、決勝はなるべく穏やかな場所で見たいと願ってる。
お気に入りの場所は、しっかり減速してコーナリングするマシンとドライバーの挙動を一番間近かではっきりと肉眼で見ることが出来る、決して見落とさないぞってな位、瞼に焼き付けることが出来る。トップを逃げるマシンも必死で前を追うマシンもコーナーに重なりあって雪崩れ込むマシン達も、見ようと思えばバイザー越しのドライバーの目線を覗き込むことさえも出来る。
そんな見せ場のあるところが好き。
車番を現認するよりも先に、コーナーを立ち上がるマシンの陽光に輝くカラーリングとメットでトップを見極める、この感動は堪らない。
20分の予選を終え、1レグの決勝が始まる。僅か5周で結果が決まる。次の2レグでトップテンに居なければ、敗者復活戦。逆算すれば、やはり1レグは最低でも10位以内、出来れば5番手以内。それでもファイナルに勝ち残るのは容易なことじゃない。
トーナメント方式は、全車が3つのグループに分かれ予選・決勝を戦う。これが第1レグ。次いで、第1レグ決勝免除のシード選手(各地方戦チャンピオン)を加え2グループに分けられ、6周の決勝が行われる。その結果各グループ上位10台が最終決勝のファイナルに進出。後は敗者復活戦の10位以内に残らなければファイナルには進めない。
ファイナル出場は全30台、10周のレース。
最短で予選から第1、第2レグ、ファイナルまでの3レース21周プラス予選20分を、2セットのタイヤで走り切る。敗者復活戦を走るなら、4レース27周だ。
シリーズ戦なら2レース分もないレースディスタンスだが、チャンピオン戦のプレッシャーは大きい。立て続けのレースにタイヤマネジメントも大切だ。なにより、短期決戦で結果を出さなければならないから、いくら抜き所があるといってもミスは出来ない。結構シビア。
勿論1レグ2レグで失敗しても、敗者復活戦に残って、腕と運があれば優勝だって夢ぢゃない。まぁ29台ゴボウ抜きはとても大変だろうけど。
コーナーに飛び込んでくる小さなシルエットが淡い陽光を跳ね返し、発光する。思わず知らず拳に力が入る。ぐんぐん大きくなるマシン、ブレーキングで後ろのノーズが危うい程に接近する。インに飛び込まれる程の僅差ではないけれど、ワンミスで順位が入れ代わっても不思議ではない程度の接近戦。
立ち上がりからグンと伸びる加速、追い縋る後続車、目の前を通過する車列の車番を書き取りながら祈る思いで見送る。後続を引き離し置いて行くまでの差はないが、少なくともミスさえなければ保たれるリード。
必ず勝てる、今日はきっと勝つ、不意にそう思う。
不安で堪らないのに、走りが、マシンが、今日は勝つぞ!と叫んでる。泣きたいくらいな緊張感で次のラップを待つ。やがてエキゾーストが高鳴り豆粒のようなマシンがコーナーに飛び出してくる。
それはまるで恋の駆け引きのようだ。
右に左にフェイントをかけてプレッシャーをかけて動揺させ判断を誤らせミスを引き出し挑発する。相手の挙動を予測して進路を封じ先手を打って準備して篭絡する。
焦っては駄目、頭に血が昇ったら負け、諦めたらオシマイ、絶対行ける必ず抜ける、チャンスはある。自分を信じて行くしかない、あらんかぎりの技量を尽くして。
見ているだけで魅せられる。
今日は絶対勝ってやる、そんな想いが、興奮が、熱狂が伝播する。最後の最後まで、勝ち負けなんかどうでもいいくらいに必死の競り合いが展開する。思い切りよく思うがままに思いのたけを競い合う、最後のレース。冷静でなんかいられない。
この時ばかりは恋する乙女のように、唯ただ、勝利を神に祈りたい。
トップチェツカーを受けるため、ただその一瞬のためだけに、その瞬間を勝ち取るためだけに走り続けて。
それでも、レースは時の運。
出来ることの全てを、全力を尽くして、戦い抜いたなら、それはベストレース。完走すれば、チェツカーは等分に振り下ろされる。チェッカーランはスタンディングオベーションで全車を迎えよう。一年間の戦いと今日の健闘を讃えて。
自分を信じること、全力を尽くすこと。
それは人生と同じ。
誇り高く生きること、それはレースと同じ。
ありがとう、最後のレース。
新しい始まりのためのスタート。

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