こんなの渓流釣りじゃねぇ!!

2006/6/1 | 投稿者: クロちゃん

 渓流釣りの世界は自然の中に静かに身を置く特異な遊びだ。
この記録はそんな私の哲学を根本から覆(くつがえ)す経験を記載したものである。

その年、例年より早く渓流釣りに目覚めてしまった。時期は2月。夜な夜な仕掛け作りをして、渓に必要な道具類を準備した。そうなると、一刻も早く渓に立ちたいと思うのが人の人情である。
“今の時期に竿を出せる渓流は?あった!千曲川だ!!”

千曲川へのルート、要する時間、日程、釣り場の情報等を綿密に練り上げた。私の計画した釣行先は千曲川支流の西川だった。
“尺上3本はいけるな!”
脳天気にその日の青写真が出来上がっていた。

2月19日(日)早朝、国道254号をひた走り、内山峠を越えた。唯一心配していた車道の雪も全くなく「尺上3本」の期待が膨らむ。午前7時前に小海町コンビ二で弁当とお茶を仕入れる。川上村に入ると入漁券を買いに日釣券取扱所に寄った。ここまで、ずいぶんと釣り人の姿があった。さすがに千曲川の渓流は人気が高い。

目的の西川は釣り人が溢れていた。あまりの人の多さに泣く泣く西川を諦め、千曲川本流を上流目指して車を走らせた。川の様子を見ながら上流へ、上流へ……。
“いる、いる、いるいる”
どこまで行っても釣り人の姿があった。そして、何のためかは知らないが、自然を破壊するブルの姿が川のあちこちに確認できた。更に上流へ移動。ようやく釣り人の姿が途切れた。
“ヤッター!”と思って川を覗き込み唖然。そこは水の流れのない小さな水溜りだった。
“ワーッ、何やってんだ俺は!!”

不本意ではあるが、もはや釣り人銀座の一員になるより残された道はなかった。静かな渓流釣りを期待してやって来たのだが現実は非情だ。こうして西川合流地点まで戻った。西川合流地点には車3台があり、川を見れば竿が7〜8本見えた。
“とにかく、やってんべ。”と半ば意気消沈した中で釣り支度をした。
そのうちに変なことに気付いた。ザックなんて背負っている奴は誰もいない。魚篭を持っている奴もいない。それに……。ウェーダーはネオプレーン製の高価なのを履いた奴ばかりである。ウェアも渓流雑誌に出ているようなものばかり身につけている。まるで、渓のファッションショーだ。何なのだ、この世界は……。私はしばらく様子を見ていた。誰も釣り上げていない……。

しばらくして、竿を片手に持ち渓流ファッションショーの中に、異人のいでたちで入った。銀座化した流れに竿を出しても全く魚信はなかった。傍を次々と釣り人が通った。何人かの釣り人と言葉を交わす。
“どうですか?”
“全然……。”“お手上げ……。”“釣っている人なんて見ないよ……。”
何なんだ、この世界は!みんな、いったい何しにきてるの?

さっさとその場を後にした私は次の入渓場所を探した。
板橋川上流。そこには水がなかった。完全に護岸された板橋川上流はコンクリートの塊であった。次に向かったのが北相木川。この時、完全に冷静さを失っていた。

北相木川は本流にも増して釣り人が立ち並んでいた。それでも、ようやく上流の釣り人のいない場所を探しあて降り立った。そこは細流のなんともどす黒い貧弱な場所だった。こうなったらどうでも良いと思い竿を出す。釣れる筈なんてないことは分かっているが、せこく竿を出した。そんな場所にも5分もしないうちに釣り人が訪れた。何なんだ、この世界は!

“こんな場所で釣れるもんか!”
歪んだ心になっていた私は訪れた釣り人を心の中で罵(ののし)った。
“やーめた。”
何か馬鹿らしくなってきて竿を仕舞い道に上がった。道に上がると今着いたばかりの釣り人に声をかけられた。
“どうでした?”
惨めな気持ちの私は話もしたくなかったが、“全然。まったくダメです。”と絞り出すような声で応えた。
その方は“本流でやっていたんですが全然ダメなんでこっちへ来たんですが。”と言った。(それじゃあ、私と同じじゃないか。)変な仲間意識が芽ばえた。
“解禁したばかりだから、少しは釣れると思ったんですけどねぇ。”
疲労の色が顔に浮かぶ彼の言葉は私にぴったりの言葉だった。
“まあ、がんばってください。”と言い残し、この場を後にして家路についた。

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そうだよ。考えてみればすぐ解る。16日解禁で、1泊2日の泊りがけの釣り人がドッと押し寄せて、前日は土曜日で釣り人ラッシュです。水量も少ないこの時期に魚は追い回され隠れてしまっているだろう。
私は自分の浅はかさを痛感した。

それにしても、千曲川はファッション感覚よろしく高価なウェーダー、ウェアに身を包み、みんな並んで竿をだして誰も釣れない。川のあちこちでブルドーザーが入り込み、釣り人銀座から逃げれば水は無し。
「こんなの渓流釣りじゃねぇ!!」

あちらこちらと走り回り、落胆した惨めな気持ちで家に着いたのは午後12時(昼)だった。ガソリン代だけが嵩んだ千曲川釣行は無残に終わった。

ここは私が向うフィールドではないと実感した。
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