夕凪の街 桜の国  新作レビュー

見た日/4月13日 ★★★★★

 広島で開かれた、完成披露試写会で鑑賞。7月公開なので、ちょっと間があるが、あまりに衝撃を受けたので、ネタバレなしで感想を書きます。

 これは・・・傑作だ。僕がずっと応援してきた佐々部監督の作品ということを差し引いても、間違いなく、今年のベストワンだ。と言うより、恐らく僕の一生涯にわたっても、心に残る秀作の一本となった、言い切っていいだろう。

 この映画は、ヒロシマや原爆を描いてきたこれまでの映画とは、一線を画した映画と言っていいと思う。いわゆる「原爆」を扱ってはいるが、原爆の被害を直接描いた作品ではない。その影響を、様々な想いで描いた傑作は他にもあったが、この作品は戦争と言うより「原爆」すなわち「核兵器」がもたらした、人間の「業」の部分にも言及している、これまでにない稀有な作品になった。

 映画は、被爆から13年経ち、自分が背負いながら亡くなった妹への贖罪と、生き残ってしまった呵責で現実の幸せを受け入れられない26歳の女性・皆実が、同僚の男性との恋に揺れ、やがて原爆症で倒れる様を描いた「夕凪の街」と、皆実の弟・旭日の娘で、現代に生きる活発な女性・七波が、意味不明な行動を繰り返し、突然広島に旅立つ父を追いかけるうち、自分のルーツを探し当てる「桜の国」の二重構造になっている。

 「夕凪の街」はストレートに悲しいお話なのだが、父と母のルーツに娘が迫る「桜の国」にとっても深い物語性があり、人の生き死にや家族の在り方を掘り下げていて、「夕凪の街」で描いた原爆の悲劇を更に際立たせ、原爆の被害がもたらした様々な影響を考えさせてくれる。

 もちろん原作のコミックが優れているのは当然なのだが、一読しただけでは複雑で理解しにくい物語を、佐々部監督は皆実と恋人・打越との関係をじっくり描き、皆実の最後を原作より劇的にすることで、より感情移入しやすく料理している。また髪留めや写真など、映画ならではの小道具を効果的に使うことで、原作と同じ構図を持ちながら、観客が物語の全体像を分かりやすく理解できるよう工夫しているため、すうっと「夕凪の街 桜の国」の世界に入れる。

 人が人の利益のため、人を殺す戦争。その戦争のため、人は人の遺伝子そのものをも破壊する兵器を作り出してしまった。その被害に人類史上最初に出会った人々の苦しみは、世代をも超える。しかし、それでも人は人を愛し、子孫を残す。まるで、「死ねばいい」と思われた殺意に背を向けるように。そして見えない絆によって繋がれ、誕生した「家族」は、悲しみや苦しみを超えて、お互いを慈しみ、「生きる」のだ。

 「被爆」という苦しみは、戦後、薄れて行ったとは言え、日本全体に広がり、溶け込んでいる。その苦しみは、我々日本人全員にとっての「苦しみ」として受け取らなければならないし、絶対に忘れてはならないものだ。それは、仏教で言う「宿業」のようなものだ。ひとつの「街」の悲劇は、私たち全体の「国」の苦しみなとなって広がる。

 そして、我々は、戦争をはじめとする、様々な苦しみを乗り越えてきた祖父母や父、母から生まれ、ここに存在するのだ。どんな悲しみや苦しみがあろうと、人が人を愛する限り、人はまた生まれくる――。そんなことを、この映画は想起させてくれた。
 
 皆実役の麻生久美子の透明感と存在感が共存する重み、田中麗奈の意思の強い瞳からあふれる涙、無口な中に存在感が自然に出る堺正章、普通の女の子の中に、芯の強さを感じる中越典子、演技の技巧に情感を感じさせる伊崎充則、存在そのものに物語が背負う歴史を感じさせる藤村志保ほか、キャストのバランスの良さはもはや、奇跡的でもある。

 哀愁を帯びたメロディーと、癒しの旋律が、三拍子で交互に醸し出す音楽もまた秀逸。ハープの音色は物語の場面場面を美しく、悲しく彩る。これをわずか20数日間で撮ったという佐々部組は、驚異という他ない。「芸術を追求する監督より、与えられた予算と日程で面白いものを撮る職人監督でもありたい」と常々監督は言われているが、今作は、職人でありながら、芸術性も大衆性も兼ね備えた、見事な傑作になっている。

 完成披露試写会で監督が挨拶された「スタッフ、キャスト全員がこの作品に関わったことに誇りが持てた」という言葉がうれしがったが、佐々部作品を応援し続けてきた我々にとっても、この作品は「誇り」そのものになるだろう。

7月公開だが、早く全国、いや世界の人に、この想いをわかってほしい、と思う。

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2007/4/22  16:10

投稿者:おたっきー

Pencil Skirtさま、コメントありがとうございます!

本当に、たくさんの方にこの映画を見ていただき、早くこの「想い」をいろいろな方と共有したい、と心から思います。

正直、今年の夏以降、人類は「夕凪〜」を見た人、見てない人の2種類に分類されるのではないかと。で、見た人のみが、これからの世界を開いて行くのではないかと、そこまで考えてしまいました。

1本の映画を見て、こんなことを思ったのは初めてです。その「1本」が我らが佐々部映画であることに、身の幸福を感じざるを得ません。

公開まで、お互いに頑張りましょう!!

2007/4/21  23:34

投稿者:Pencil Skirt

おたっきーさま
さすが・・・最高の感想でございます。
わたしがこの映画を観て、表現したかったことが全て書かれています。
映画公開まで、いえいえ公開してからもこの映画を一人でも多くの方に観ていただけるよう、お互いに頑張りましょう!!

http://pencil-skirt.at.webry.info/

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