追悼・熊井啓監督  映画つれづれ

 社会派監督として知られる、熊井啓監督が亡くなられました。

 「サンダカン八番娼館−望郷」「黒部の太陽」などで知られる熊井監督ですが、帝銀事件や下山事件、最近では松本サリン事件など、昭和の暗部とも言える事件を真正面から「映画」として描き、社会派で骨太な映画を作り続けてこられました。

 個人的には、リアルタイムで見た「海と毒薬」と「日本の黒い夏−冤罪」が忘れられません。確かに社会派な作風なのですが、現実の事件を扱っていても、決してドキュメンタリー調にこだわることなく、役者さんの「芝居」にこだわった作品づくりが印象に残っています。

 あくまで役者が演じる「映画」というフィクション性のある媒体によってその事件の本質に迫り、そこから何かをあぶり出し、観客に感じてもらおうという姿勢だったのでしょう。重いテーマであっても、そこには確かなエンタテイメント性がありました。

 「海と毒薬」での、奥田瑛二と渡辺謙が演じる若い医学生たちの倫理をめぐる葛藤は、理想と考え方が違う2人同士の葛藤でもあり、それは画面にとてつもない緊張感を生んでいました。「日本の黒い夏」でのややオーバーアクション気味だった北村有起哉扮する若い放送記者も、あえてその過剰とも取れる「演技」によって、日本の「報道」が持つ問題的な側面を浮かび上がらせていました。

 そういう意味では、「望郷」をはじめ、近作の「愛する」も、「ひかりごけ」も、役者さんの見事なお芝居が光っていました。そこには妥協を許さない脚本と演出が存在していたからこそ、なのでしょうが、今村昌平監督に続き、今また日本映画界は大きな星を失ったように思います。

 熊井監督のご冥福を心よりお祈り致します。
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