怪談  新作レビュー

見た日/8月某日 ★★★

新作レビューと言いながら、もうほとんどの地域は公開が終わっている。

まあ「怪談」と言えば、旬は夏だものなあ。公式HPを見ても、かなりの劇場は8/31が上映最終日だったようだ。まだ上映しているところはあるのだろうか?僕も鑑賞したのは最終日前日だった。半年後にはDVDが出るとは思うが、未鑑賞の方はそのときの参考にしていただければとは思う。だから、内容の紹介は避ける。

今やJホラー界の巨匠でハリウッドでもメガホンを取る中田秀夫監督だが、同監督は何かのインタビューで「ホラーだけにこだわりたくはない」と発言され、ラブストーリーも撮りたい旨の発言をされていた。手塚治虫原作の漫画の映画化作品で、少年少女の数奇で純粋な気持ちを描いた「ガラスの脳」を観ると、失礼ながら中田監督の真骨頂はやはりホラーにあるな、と思った。

中田監督の作品は、デビュー作「女優霊」が一番怖い、と僕は思う。「リング」ももちろん素晴らしいが、何気ない日常生活に潜む人の怨念、といった描写が実に上手い。「女優霊」も撮影所で進む映画の撮影に、密かに入り込んだ女優の怨念がジワジワと迫る様子が手に汗を握る。映画を撮る意欲を示す若い監督、その役を演じることを喜ぶ女優ら、人物描写も丁寧。しっかり「人」を描いているからこそ、あの映画は怖かったのだ。正直、ラストはちょっと引いたが・・・。

映画としては「女優霊」より完成度が高い「リング」では、呪いのビデオを見てしまった息子を助けようとする母親の必死さが、恐怖を増長させる。人の日常生活と得体の知れない恐怖が背中合わせに存在し、密着しているからこそ、観客にとってリアルな恐怖として伝わってくるのだ。

この「怪談」も、時代劇ではあるが、中田監督の手腕は健在。物語の中軸がラブストーリーなのは中田監督の思いもあるのだろう。普通の恋愛が、数奇な因縁によって女の怨念となり、壮絶な怪談話になっていく展開は、主役の尾上菊之助の魅力と熱演もあって、思わず引き込まれる。中盤からの「恐怖」シーンは、日常生活に潜む怨念の恐怖、という中田演出の醍醐味がこの映画でも十分味わえ、広い劇場で観客も少なかったせいか、結構、いや、かなりドキドキしてしまった。

ただ、事件に巻き込まれる菊之助のオーラに比べると黒木瞳演じる豊志賀はさわやかさが抜けず、ちょっと情念が感じられないところもあって、後半の怨念劇の展開に無理も感じられるのだが、中田監督の演出による映画全体の佇まいと、麻生久美子や井上真央、瀬戸朝香らの女優陣の熱演もあって、そんな弱点をカバーしている。あと、セットや小道具、衣装などがとっても頑張っていて、プロの仕事が映画の雰囲気をきちんと盛り上げている。

ラストの余韻もよかったが、突然かかる浜崎あゆみの主題歌にはちょっと引いてしまった。昔から言われることだが、タイアップの主題歌なんて必要なのだろうか?宣伝には不可欠なのだろうが、今回もかなりの違和感はあった。鑑賞後の雰囲気、ぶち壊しである。

公式HPを見ると、浜崎あゆみサイドは映画のために主題歌を書き下ろした、ということだった。歌詞の世界観は「怪談」を反映させているのだろう。だが、その映画の雰囲気や世界観をまるっきり無視した主題歌が多い中で、そのぐらいはして当然だ。でも、メロディーがそれまでスクリーンで2時間入り込んでいた「怪談」の世界観とは全く違う。

アーティストサイドも、映画の主題歌を担当するなら、どんなメロディーがその映画に合うのか、そこまで気を使ってほしい。この映画に関しても、一流の現場スタッフがいい仕事をしているのに、正直、残念なのだ。

誤解されては困るが、その主題歌そのものの楽曲の良し悪しを論じているのではない。今回は、「主題歌は浜崎あゆみに決まったぞ!」「これでヒット間違いなし!」と手放しで喜ぶ配給側や宣伝担当の姿がどうにも透けて見えるのだ。「どんなアーティストがこの映画に合うのか」「どんな主題歌ならこの映画が生きるか」という発想よりも「旬なアーティストがこの映画の主題歌を歌ってくれないだろうか」「このアーティストが主題歌を歌ってくれたらヒットするだろう」という発想の方が勝っているようにしか見えないのだ。

だからこそ、せめて主題歌の担当者は劇伴(劇中に使う音楽のメロディー)を確認してから作曲にとりかかってほしい。せっかくこの映画の作曲家、川井憲次さんがいい仕事をしているのに残念だ。そういう意味では同じメジャーの松竹配給作品ながら「出口のない海」の竹内まりやさんは見事だった。主題歌「返信」は竹内さん自身が脚本を読み込み、映画で描かれなかったヒロインの心情を補充する形で歌詞を書いているし、何より感心したのはそのメロディー。何と、劇伴と同じ調、コードアレンジの手法で作曲しているのだ!!

ここまで本編の音楽に気を使い、上手く融合している主題歌は珍しい。本編と主題歌の作曲家が同じ場合はマッチングしている例はあるが、日本のメジャー映画の場合、ほとんどは有名歌手とのタイアップで本編と主題歌は分離しているのがほとんどだから、こういう好例はまずない。

まあ、タイアップ主題歌のひどさはこの映画に限ったことではない。もっとひどい例もあるし、HPによると、浜崎さんは楽曲制作に当たってこの映画に入れ込んでいた、というからまだいい方だろう。
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