クラッシュ  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★
 この映画を見て、思い出したこと。
 新聞社の駆け出し記者だった15年ほど前。男が猟銃を持って家に立て篭もった事件が発生した。上司から現場に急行するよう言われ、あわてて車を現場近くに走らせた。路地脇の空き地を見つけて駐車しようとしたら、ハンドルを切り損ねて対抗していた車にぶつかった。
 どう考えても、僕が100%悪い。しかし、現場はすぐそこ。もう警官隊が周囲を囲み、騒然とした雰囲気がその空き地にも伝わってくる。
 悪いことに、わが社の記者の一番乗りは僕。応援が到着するまでしばらくかかりそうで、とにかく現場に行かないといけない状況だ。一報をすぐに社に送らないといけない。
 暗雲たる気持ちになったその瞬間、相手の車から若い女性が降りてきた。かなり怒っている。当たり前だ。「すぐに警察を呼んでください!!」
 当時、携帯電話などない。近くのコンビニに行き、まず会社に電話。「どうした!現場はどうなっている!」デスクの怒号に、恐る恐る事情を話すと、「何やってんだ!こんな時に!すぐに応援が行くからそれまで何とかしろ!」と受話器が張り裂けそうな怒号の嵐だ。
 続いて、警察に電話。「分かっていると思うけど、今、例の事件でウチの警官、全員そっちに行ってるのよ。悪いけど、落ち着いてから連絡してくれる?あなたもそれどころじゃないでしょ!」。
 困った。で、空き地に戻って、女性に申訳なさそうに事情を話す。すると、さっきまで怒っていた女性の顔色が変わった。彼女、事件のことは知らなかったようで、その男の近所に住んでいるという。いろいろな情報を嬉々と教えてくれた。事故の処理もあとで構わないという。
 ホッとし、連絡先を教えあうと、現場に向かった。ちょうど先輩記者たちも駆け付けたところで、数時間後、男は逮捕されるが、女性の情報も役立ち、僕にとってもいい経験になった…。

 さて、映画の話だが、正に上記の僕の経験如く、1つの事故、アクシデントが、その1日や一生を変えることは実際にあると思う。この映画では十数人の登場人物が出てきて、いくつかの「事故」を通し、様々な事件や人間模様が鮮やかに描かれる。先が読めない展開が続き、ものすごい緊迫感と、印象的なエピソードが重なっていく。
 僕が出会った女性もそうだが、人は様々なきっかけで感情は変わる。どんな人間も様々な社会的な要素によって悪人にもなるし善人にもなるし、他人に対して冷たくなることもあり、暖かくなることもある。そういった感情の変化によって揺れ動く関係は会社内でも家族間でも起こるから怖い。
 この映画は、その重要な社会的要素として「人種差別」を挙げているが、遠い外国の話で、身近な生活に人種的な差別も多くは感じないのに、この物語がとても身近に感じたのは、一つのアクシデントで起こる人間の感情の揺れをきちんと描いているからで、こういうことは僕らの身の回りでもよくある「揺れ」だからだろう。
 サンドラ・ブロック、マット・ディロンら有名俳優も出ているが、ある面ドキュメンタリーのような味わいもある秀作である。
 ★は4つにするか初の5つにするか迷ったが、完璧な脚本ながら、個人的に一部消化不良な描き方があって、流れに乗れなかった場面があったので★4つ。
 アカデミー作品賞も納得で、この監督さんが脚本を書いた「ミリオンダラー・ベイビー」よりはるかにこっちの方がいい。
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