奈緒子  新作レビュー

見た日/2月某日 ★★★★★

スポーツ物の映画として、出色の出来。

「駅伝」を描いた作品はこれまでもいくつかあったが、「駅伝」というスポーツが持つ魅力をきちんと伝えてくれた映画は恐らくこれが初めてだろう。

上映館が少ないにも関わらず、2/16公開映画では「ぴあ」満足度1位を獲得したのも納得。ちなみに、2/2公開作品では「結婚しようよ」が満足度1位だったのでこれもまた嬉しい。

「まぶだち」以来、「ロボコン」も「さよならみどりちゃん」も、古厩智之監督の作品は、どれも出てくる若者たちの青春群像を描きながら、一人一人の心の揺れを、リアルに、そして鮮明に描いていて秀逸だが、この作品でもその手腕は如何なく発揮されている。

人格的にもまだまだ不完全な高校生が、クラブ活動に取り組めば、真剣になれば真剣になるほど、仲間への妬みや指導者への不満、力が発揮できない自分への焦りなど、いろいろな感情が出てくるのは当然だ。

そんな、中学や高校時代にクラブ活動に熱心だった人なら誰もが持ったリアルな“感じ”が、等身大で表現されているから驚く。

とくに「駅伝」はタスキをつなぐスポーツであり、仲間同士の信頼がないと成り立たない競技でありながらも、実は個人競技でもある。

個人としての頑張りが、仲間意識につながり、それが人生の目的にもオーバーラップしていく…この映画は、そんな「駅伝」の妙を、主人公を中心に、選手一人一人の個性をサラリと、でもしっかりと描きながら、見事に表現している。

そのリアルさを体現しているのが、役者たちの見事な走りっぷり。クライマックスのレースシーンはリアルで、「走り」がきちんとしているからこそ、映画全体も生き生きと「走る」。

欠点があるとすれば、それはこの映画の原作コミックだろう。映画としてリアルに描こうとすればするほど、実は「奈緒子」の存在や監督を巡るエピソードがいささか邪魔臭い。

だが、古厩監督はそれを逆手に取った。物語の中心となる雄介と奈緒子の運命的な関係を冒頭で描きながら、中盤からはひたすら奈緒子をストイックに描き、あまり活躍させない。

その間に陸上部員たちのエピソードを丁寧に描き、雄介へのある想いを観客に印象づけたところで、後半の1シーンで「奈緒子」の存在を決定的に印象付けさせ、ある意味あり得ない原作の設定や奈緒子の存在を、リアルなものにし、物語に繋げたのだ。

古厩監督は、これまでの作品は全て青春映画ながら、登場人物たちの「心の揺れ」を描くことに熱心で、これまでの作風を見ると、正直、青春映画にありがちなカタルシスが感じられる映画は嫌だったのでは、と思う。

あの傑作「ロボコン」に至っても、ロボットコンテストとは言え、「競技」を描き、主人公たちのチームは全国大会を勝ち進んでいくのに、過剰な演出や音楽での盛り上がりは一切なく、実はそこが秀逸なのだが、その辺りを期待していた人からは厳しい意見もあった。

それが、この作品では監督得意の「揺れ」をきちんと表現しながら、スポーツ映画が持つストレートな感動やカタルシスも用意されていて、ちょっと驚いた。後半はベタだが、そこは古厩監督で、決してベタベタにはなっていない。

思うに、どの監督も、自分が撮りたい芸術性と観客に向けた大衆性との間で苦しむものなのだろうが、今回の作品は、古厩監督にとって、これまでにない観客寄りに立った作品づくりをしながらも、自分の持ち味は無くしていないという、ターニングポイント的な作品になったのではないかと思う。

思えば、僕が大人になって、「映画」を見るだけでなく、様々に関わるきっかけになったのは、「ロボコン」だった。僕が住む街でオールロケがされた、あの映画で市民応援団の事務局を担当しなければ、そのあと「映画」に関わる決定打になった「チルソクの夏」も、それを加速させた「ほたるの星」もなかったのだ。

そういう意味では、古厩監督は僕の恩人なのだが、そんな監督さんがまたまた素敵な作品を作ってくれたことに感謝し、また新たな地平に臨んだことに感動し、次回作に期待したい。

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2008/3/1  16:31

投稿者:・・・A


原作コミックを見ないで鑑賞、〜爽やかな風に吹かれたような映画でした。
ありがちな熱血スポコン物はなく、解決で完結とするお話でもなかったところにリアルさを感じ好感が持てました。
奈緒子と雄介の宿命をドラマチックに見せてくれた 給水のシーンは綺麗で、 落下するペットボトル・雄介の眼差しに 二人の関係性がはっきりと描かれ、彼らの心の音が聞こえるようで印象深く心に残りました。雄介役の三浦春馬くんの眼差しは、色々な思いを滲ませていて これからが楽しみです。全体を 青春の足音が包み、 若さの揺れが爽やかです。ライバルの黒田くんも めっちゃ好い人で どこまでも心地よい映画でした。走る雄介の後ろ姿を思う私がいます。

2008/2/29  7:14

投稿者:おたっきー

MOTOさま、コメントありがとうございます!

映画って、映画館という空間で、ある種「体感」できる芸術なのかな、とも思います。

そういう意味では、この作品は正に高校生たちが等身大で挑んだ「駅伝」が体感できる映画でした。

古厩監督は、本当に若者の心情を、セリフではなく映像でさりげなく描くのが本当に上手い。

僕は、ゴミ捨ての長回しのシーンで、奈緒子と雄介の気持ちが何も言わないのにグッと近づく、あのシーンに参ってしまいました。

本当に次回作が楽しみです。

2008/2/28  14:27

投稿者:MOTO

人気コミックの映画化、若手人気俳優出演などその話題性とは関係なく純粋に駅伝をテーマした青春映画として素晴らしく楽しむことが出来ました。

息づかい、地面を蹴る足音、汗、日焼け、筋肉…それらに嘘はなく一人一人が懸命に走って走って走りまくっている姿に感動が込み上げてきました。走り終わった後全員が一つになるシーンでは部活動に無我夢中で取り組む普通の高校生に見えて「青春」っていいなと思いました。

次回作が今から楽しみですね!


2008/2/23  9:49

投稿者:おたっきー

朱色会さん、コメント、ありがとうございます!

おほめ頂き、恐縮です。朱色会さんのブログの映画記事、温かな眼差しからの選評が鋭くも心地よく、いつも楽しみにしています。

本当、なぜか「駅伝」って、見てしまいますよね。
とくに今年の箱根は感動的でした。

「タスキ」は「心」をつないでいる…この映画を見ても、納得です。

2008/2/23  8:32

投稿者:朱色会

素晴らしい評です。
年っぱらから箱根の駅伝に、なぜ走る人が集うのか?
そして全国のお茶の間が、注目してしまうのか?
納得するものがあります。

http://blog.so-net.ne.jp/shuseki-kai_org/2008-02-17

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