北辰斜にさすところ  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★★

旧制高校の青春を描いた、いい映画である。

旧制鹿児島高等学校(現鹿児島大学)、通称七高の学生たちの青春と、現代の姿が交互に描かれていき、次世代に伝えなければいけない大切なメッセージが描かれていく。

この映画には、作り手のいろいろな想いが詰まっているように思えた。

パンフレットなどによると、旧制高校に今の教育の問題点を解決できるヒントがあるのではないか、と考えた鹿児島大学出身の弁護士さんが、旧知の作家であり、俳優・劇作家でもある室積光氏に相談したのが映画製作のきっかけなのだという。

それで、室積さんが旧制鹿児島高校の卒業生30人から取材し、脚本を書き上げた。室積さんはこの脚本を元に小説も書き「記念試合」として小学館から上梓している。

冒頭、バンカラ学生の掛け声に続き、ストームで七高(旧制鹿児島高校)の寮歌「北辰斜にさすところ」を歌い、踊る学生たちが描かれる。

ここから当時の学生たちの青春と、現在の卒業生たちが五高と現熊本大学で宿命のライバル校だった旧制熊本高等学校・七高の野球の記念試合を開こうと奮闘する姿が重なっていく。

旧制高校の寮歌と言うと、一高(現東大)の「嗚呼玉杯に…」などが有名だが、旧制高校の寮歌にはいい歌が多い。僕は旧制大阪高等学校の寮歌「嗚呼黎明は近づけり」が好きだが、その中にこんな歌詞がある。

「君が愁いに我は泣き 我が喜びに君は舞う 若き我らが頬に湧く その紅の血の響き」
こんな友情は素敵だと思うし、現代の若者にはなかなかない。この世界観にはしびれるものがある。この映画で描かれるのは、そんな世界である。

先ほども書いたように、この映画に込められた想いは一つではない。戦前の旧制高校という教育の場で、若者の人格が形成されていったのか。そこには先輩と後輩という、師弟愛にも似た絆が築かれて行った。そこには、今の社会、教育現場にも廃れた大切な何かが確かに存在していた。

そして、多くの優れた人材の生命が戦争によって奪われたという事実。それから野球への想い…。映画では、こうした想いを後世に伝えようとする老人たちが登場するが、彼らも郷愁だけを感じているような単純な存在としては決して描かれない。

かつてエースだった主人公は、孫に高校時代を聞かせることには積極的だが、いざ記念試合への出席を同窓会事務局から誘われると、それを拒否する。

その拒否の理由を、映画では明確に説明しない。しかし、長い年月を通して湧いた様々な想いによるその理由が、丁寧な脚本と演出、三國連太郎の演技でしっかり伝わってくる。

テーマが複数あると映画が散漫になりがちだが、そこは「ハチ公物語」「草の乱」「郡上一揆」のベテラン、神山征二郎監督。上手にまとめ、きちっとクライマックスの記念試合につなげる手堅い演出を見せる。

映画は何でも説明するテレビドラマと違い、じっくりと映像やセリフ、音楽で観客に伝え、観客もまたその行間を読める芸術だと僕は思うし、その受け取り方は様々あっていいとも思う。

最近の日本映画はテレビドラマのような映画ばかりで嫌になってしまうが、日本映画が量産されるようになって、こういう良質な地方発の映画が単館系とは言え、多く作られていることはいいことだと思う。

僕たちの身の回りにいる、普通のおじいちゃんやおばあちゃんにも、様々なドラマがあり、彼らが今の社会を作り上げたことを感じ、感謝せずにいられない…そんな映画だった。

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2008/5/11  7:22

投稿者:おたっきー

MOTOさま、あさかぜさま、コメントありがとうございます。

MOTOさま、確かに、たたえあう…ということは、人にとって、とっても大切なことだと思いますが、最近そういう風潮は薄れているように思います。

この映画には、そんな大切な次世代に伝えるべきことがたくさん描かれているように思いました。

あさかぜさま、この映画の原作・脚本の室積光さんは、確かに、光市の御出身です。


俳優さんでもあり、福田勝洋名義で「3年B組金八先生」の体育教師役などで活躍されています。
最近は作家として「都立水商!」「ドスコイ警備保障」などヒット作を連発していて、間もなく「小森課長の優雅な日々」が映画化され、公開もされるようです。

光市の上映会、僕も行きましたが、すごい人数でした。室積さん、そして緒形直人さんも来られていましたが、何より室積さんを応援しようという気概に会場があふれていました。

本当に地元っていいです。

2008/5/8  0:01

投稿者:あさかぜ

原作者「室積光」さん。名前から光市出身の方ですね。この映画はシアター・ゼロで観て始めて知りました。今度、光市でもこの映画の上映会があるという新聞記事を見ました。地元って本当にいいですね。

2008/5/7  22:41

投稿者:MOTO

おたっきーのおっしゃる通り自分の祖父母も様々な青春を過ごして今のこの社会を作ってきたんですよね。そして今ここに私が存在している…
また激動の青春時代を生き抜いた仲間だからこそ時代を経ても色あせることなく今も互いにたたえ合っている…今は確かに薄れているかもしれませんね。そんな大切なことをたくさん教えてもらいました。

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