ぐるりのこと。  新作レビュー

見た日/9月某日 ★★★★

最近、リアルで自然体な演出にこだわった日本映画が多い。日常をカメラで切り取るような、こうした傾向の作品は諏訪敦彦監督作「M/OTER」(1999)当たりから増えたような気がする。

この作品も、そんな作品のひとつなのだろうか。橋口亮輔監督の、ヒリヒリするような感性や痛みが、スクリーンから痛いほど伝わって来て、正直、辛いのだけれど、何とも言えない魅力が漂う、刺激的な1本だ。

主人公のだらしないけれども、妻に優しい法廷画家・カナオは、何だか僕によく似ている。自分の人生を揺るがすマイナスな出来事が起きても、僕自身、ひょうひょうとしていて、どこかその出来事を楽しんでいるような風があった。

法廷で世間を騒がした事件の被告に出会っても、にじみ出るような影響はあろうが、劇的にどうにかなるわけではない。その感じも、僕が新聞記者時代に感じたこととよく似ている。

いろいろな事件や事故、人に出会っても、そんなに自分の性格や主張が変わるわけでもなく、様々なことは思うけれど、煩わしいことは嫌で、家に帰ればビールを飲んでひたすら寝るだけの毎日だった。

だから、この主人公には感情移入できた。ぶっきらぼうなんだけれど、年月を経て夫婦の間にできてきた自然な感じの「愛情の共有」が、何とかマイナスな出来事のトンネルを抜け、自堕落な毎日を卒業して結婚し、いつの間にか4人の子持ちになった僕としても、自然に共感できる。

そんな、ナチュラルさと、法廷で出会う「被告」の様子からうかがわれる、映画全体に漂う雰囲気とは一瞬違うのでは、と思えるほどショッキングな、様々な「事件」との対比が、この映画の魅力でもある。

夫婦役のリリー・フランキーと木村多江が出色で、2人が出す空気感は「本物」だ。資料を見ると、2人は極限まで本当の夫婦になるための演技のエチュードを繰り返したのだという。

恐らく、演出した橋口監督もその2人の「本物」にどっぷり浸かり込んだのではないだろうか。その監督が抱いたであろう、ヒリヒリとした空気感は、しっかりとスクリーンに刻まれていると思った。

この2人が出す空気感と比べると、寺田農氏や八嶋智人氏ら、脇役の俳優陣たちの演技はどうしても「演技」に見えてしまい、違和感があった。柄本明氏はそのキワキワ。被告たちを演じた役者さんたちは逆にその堂々とした役者っぷりが見事だった。

そんな異物が入り込んだ、混然となった作品ではあるが、もしかしたら、それも監督の狙いかもしれない。だって、ありふれた2人の夫婦の日常に、誰もが実在の事件を想起できる裁判を差し込むなんて、なかなか普通の感性では思いつかない。

時代の空気や、予定調和も盛り込みながら、まったく自然体の夫婦を浮き上がらせる。これも計算だとしたら、この監督さんはスゴイ。
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