グラン・トリノ  新作レビュー

観た日 4月某日 ★★★★★

クリント・イーストウッドのセリフやその動きひとつひとつに意味があって、様々なものが「読み取れる」。

この「読み取れる」ことこそが、洋画、邦画問わず「いい映画なのだ」と改めて思わせてくれる、文句なしの傑作だと思う。

最近は、何でもセリフと過剰な演出で見せる映画がハリウッドだけでなく、日本映画でもたくさんあるが、そんな作品群とは一線を画している。

この映画の主人公は、かつて朝鮮戦争に従軍して功績を挙げ、高級住宅地だった住宅地に一戸建てを構え、玄関にアメリカ国旗を掲げ、車庫前に磨き上げた70年代のアメリカ製の名車グラン・トリノを飾りをそれを眺めながらビールを飲むのを生きがいにしている、頑固な老人だ。

おまけに白人至上主義で、有色人種をひどく嫌っている。息子や孫にも理解されず、じじい呼ばわりされていて、そんな息子や孫に気に行ってもらおうなんとことは、ちっとも思ってない。戦後はフォード社の整備員としてコツコツ勤めてきたが、息子はあろうことかトヨタのセールスマンで、ただ一人の理解者だった妻も亡くなってしまった。

しかし、彼が年老いている間に、近所はアジア系の移民が多く住むようになり、治安も悪くなって、様子は変わってしまった。やがて彼は、グラン・トリノを盗もうとした隣家のモン族の少年・タオと知り合い、彼と関わることに生きがいを見出す・・・。

この映画は雄弁ではないが、国旗を掲げ、芝を刈り上げ、古い名車を大切にする主人公から、彼が古き良きアメリカそのものの姿であることが分かる。そして、その姿は、クリント・イーストウッドがスクリーンで演じてきた役柄が年老いてしまった姿そのものでもある。

「ダーティーハリー」のハリーのようでもあるし、彼が「ハートブレイク・リッジ」で演じた、アメリカ海兵隊にカンパックする元将校もまた、朝鮮戦争の英雄だった。

そんなヒーローを演じていたイーストウッド翁が、この映画では銃を放つことにためらい、かつて朝鮮戦争で若い少年兵を殺したことに悔み、あれだけ嫌っていたアジア系の家族たちに心を開く。

その、かつての罪を悔み、タオやその家族に心を開いて行く過程が丁寧で、イーストウッドの言動ひとつひとつに裏付けがあり、説得力がある。やがて彼は、少年とその家族を守るために、ある行動に出るが、それは人生の総仕上げに挑む、人としての崇高な姿であり、あらゆることに悩み、傷つきながら生きている同じ人として、深く、深く、心に染みいる。

この過程も、映画は決して雄弁ではない。イーストウッドは物静かだし、他の登場人物たちもいちいち自分の心情をセリフで言ったりはしない。だけど、その気持ちの奥にあるものが、しっかりと伝わる。これこそが、名演出の賜物だろう。

銃による力で悪を倒し、戦争体験を若者に伝え、再び戦場に送り出し、年老いても尚怒りを銃に託した、かつてのイーストウッドは、ここにはいない。イーストウッドも、アメリカも、変わってしまった。でも、その代わりに手にした、手にしようとしている「優しさ」は、人生にとって、最も必要なものなのだ。
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2009/6/7  11:36

投稿者:マニィ

K−SASABEさま、コメントありがとうございます!!

「自分の人生の総仕上げを、将来がある少年達に最悪の形で背負わせるってのはどうなんでしょう?」

・・・なるほど、そういう見方があるのか、と思いました!

まだまだ僕の観方は浅いなあ、と感じつつ、「たまにはマニィさんと意見が違うのもいいですね。それでこそ映画だと思います」とのコメントに、嬉しくもありました。

映画は百人いれば百通りの感想があるもの。「それでいい」と思いますし、だからこそ楽しい、と改めて感じました。

作る方たちが思いもよらない感想があったり・・・以前も、ある映画で僕と真逆の感じ方をしている人がいて「そんな観方があるんだ」と感心したことがあります。

今回のコメントを読ませて頂き、一本の映画でいろいろ、それぞれ感じて、それを語り合う、これも映画の醍醐味なのかな、と思いました。

2009/6/4  22:07

投稿者:K-SASABE

異議アリ!
「スペース・カウボーイ」までは大好きなC・イーストウッドでしたが、最近の彼の作品は僕には合いません。この作品も周りの人たちがベタ褒めで、今回こそはと期待したのですが…。
アナログ爺さんと少年の話ってのはいいのですが、自分の人生の総仕上げを、将来がある少年達に最悪の形で背負わせるってのはどうなんでしょう?…少なくともこの少年達を自立さすのがこの主人公の仕事だと思った次第です。

たまにはマニィさんと意見が違うのもいいですね。それでこそ映画だと思います。

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