愛を読むひと  新作レビュー

観た日 7月某日 ★★★★★

この映画、そんなに説明は過多じゃない。

ストーリーの中で、様々なことが語られていくが、決して心情をセリフで表現する訳でもない。だけど、登場人物たちの心情や想いが、切々と迫ってくる。

映画では2人の長い、長い時間が経過していくが、その行間にいろいろなことが読み取れ、また想像を喚起させてくれる。

前半もいい。初めて恋をし、大人の女性の肉体を知ったときの、少年の喜び。演じるデビッド・クロスの演技も瑞々しい。対するケイト・ウインスレット演じるあこがれの女性、アンナはすでに30代半ばで、身体の線が崩れているのが妙に生々しい。少年は一途に恋をするだけだが、観客はアンナの複雑な気持ちや訳ありげな暮らしぶりに思いを馳せる。

彼女が勤務する電車内で無邪気に待ち伏せする少年に対して、怒るアンナ。大人の気持ちが分からず少年が戸惑い傷つくシーンなど、思春期特有の思いが痛いほど伝わる。少年はアンナに本を読んで聞かせるが、ここのシーンがのちのちの伏線となっていく。

映画はそこから意外な展開を見せる。大学の法学部に進んだ少年は、授業の一環で見学に行った実際の裁判で、アンナと出会う。アンナは戦争犯罪の被告であり、少年は、そこでアンナがひた隠しにしていた事実に気づき、激しく動揺する…。

主人公は成長とともに配役が変わるが、アンナ役は一貫してケイト・ウインスレットが演じている。この存在感が凄い。決して気持ちを表に出さないのだが、時折、一瞬だけ見せる表情に、アンナが抱える様々な想いをにじませていて、ケイト・ウインスレット恐るべし、だ。アカデミー賞主演女優賞も納得、である。とくに裁判所でアンナが叫ぶセリフに、胸を打たれる。

後半は一般人が戦争犯罪人となる恐ろしさが描かれる。アンナは加害者ではあるが、実は被害者でもある。そしてアンナが抱く秘密と、アンナを愛してしまったが故にその苦しみから抜け出せないまま大人になり、弁護士となってもその呵責に悩み続けている主人公の思いが交錯していく。

主人公は大人になってから、アンナに再び本を朗読し、テープにして送り届けるのだが、これはアンナのため、というより、自分自身のためだったのではないかと思う。

戦争は、様々な形で、何気ない普通の人の生活を破壊し、傷つけていく。何が正義で、何が悪なのか。それを裁く権利は、誰にあるのか。

切ない恋物語から、映画は人が生きることの宿命のようなものを描いていくが、この作品は押し付けるでもなく、淡々と流れていく物語の中で、静かに、そして力強く、人の想いを紡いでいく。

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2009/10/6  5:26

投稿者:マニィ大橋

仲間たちのFさま、コメントありがとうございます!

ここ数年、洋画でジーンと来るものは少なかったのですが、この映画は久々にグっと来るものがありました。

ドイツ語でないのは確かに同感です。ドイツの方は違和感あるだろうなあ、と思います。

2009/10/6  5:21

投稿者:マニィ大橋

K−SASABEさま、コメントありがとうございます!

>想像(創造)させてくれることこそが映画の醍醐味。

御指摘に感動です。

わずか2時間ほどの映画のはずなのに、映画で描かれる、長い時間の経過が愛しくなる、そんな映画だったなあ、とジワジワ感じました。

確かに、映画はドイツが舞台なのに、ドイツ語訛りの英語で少し?でした。あれだけ丁寧に作っているのに、やっぱり世界マーケットを意識すると、仕方ないのでしょうか。

原作、是非、読んでみます。

2009/9/8  22:50

投稿者:仲間たちのF

私も久々に賞賛できるこの映画に出会いました。貴兄のコメントは同感いたしております。ただ願わくば台詞は全てドイツ語で話してほしかった。

2009/9/7  12:04

投稿者:K-SASABE

想像(創造)させてくれることこそが映画の醍醐味。
この作品は本当にそれを感じさせてくれました。粗っぽさはあるけど、全部説明されるより全然ましです。
僕の唯一の残念は、英語の作品になったこと。ドイツ語で語られるこの作品が観たかった。
原作「朗読者」、是非一読を…。
決して業者の廻しものではありません。

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