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★★★

手塚治虫先生生誕80周年記念映画と聞いて驚いた。

手塚先生は確か60歳で亡くなられたはずだから、もう20年も経つんだ、という感じである。

手塚先生が亡くなったとき、朝日新聞が素敵なコラムを載せていた。

アメリカでは、電車やバスに乗っていても、誰ひとり、マンガを読んでいない。何故か? それは、アメリカには、手塚治虫がいなかったからだ、という趣旨だったように思う。

日本でマンガという文化を築いた手塚先生は、アニメーションではアメリカのウォルト・ディズニーを尊敬し、生涯追いかけた、とも言われる。

ある専門家によると、アトムのデザインは、ミッキーマウスの影響、という指摘もある。

その専門家の指摘だが、アトムにあってミッキーにないもの、それは「自己犠牲」の精神という。

確かに、アトムは自分を生んでくれた人間に対して犠牲を払う精神を常に持っている。その典型的な場面が、テレビ版の伝説となった、地球を救うために太陽に突っ込んでいく、あの最終回だろう。

その全編に漂う物悲しさは、戦後間もなく誕生した物語故かもしれないが、アトムが背負っているのは、アトムが、テンマ博士が失くした子どもの身代わりという宿命である。成長しない息子に嫌気がさして捨てられた、という宿命こそが、その物語の真骨頂でもあると思う。

アトムは、人間である父親に捨てられても、人間のために戦う。それは、ロボットが人間に奉仕するという三原則を守るため、だけではない。常に悩みながらも、人のために戦うのは、実は、アトムそのものが、人になりたいからではないか、とも深読みできる。

アトムは、人になるため、人であろうとしているのだ。この設定は、手塚先生が幼い頃から親しんだという、ピノキオの影響が見られると思う。

その辺りは原作の「アトム今昔物語」を読むとかなり痛烈に感じるが、手塚先生の作品群は、常に人間の心の深さや矛盾を追求していて、読むたびに新たな感動がある。

で、この「鉄腕アトム」のハリウッド版である。オリジナルに敬意を表していて、ストーリーやテーマ性は、原作を踏襲している。息子の真氏が、脚本に参加もしているらしい。

のっぺらぼうのアトムをはじめ、トイ・ストーリーのようなキャラクターに多少の違和感はあるが、楽しめる作りになっている。手塚マンガおなじみのヒョウタンツギもヒゲオヤジも、ハム・エッグも登場する。ランプが出ないのが、ちょっと残念。

アメリカのアニメに憧れた手塚先生の日本製アニメが、ハリウッドのスタッフたちによって映画化されるとは、時代も進化したものである。

ただ、このハリウッド版は、原作とひとつだけ、強烈に違う点がある。それは、テンマ博士が悪人ではない、という点である。

この一点で、父親に裏切られる、という原作の重要な要素が変わってしまったのは事実である。この変更で、親代わりとなるはずのお茶の水博士の役どころが、何となく中途半端にもなってしまった。

その分、「父と子」というテーマ性が浮かび上がってはきたが、原作が持っていた人になりたが、成り切れないロボット、という深いものは乏しくなってしまったようにも思う。

だからと言って、つまらないことはない。感動もできるし、エンタテイメントに徹した、堂々たるアニメ映画である。ちなみに、日本語版のアトムの声は上戸彩だが、実にこれがいい。彩ちゃん、達者である。

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