MW
★★★

これも、手塚治虫先生のコミックの映画化作品。生誕80周年記念作品である。

長年のファンからすると、よくぞ「MW」を映画化したなあ、と思う。手塚先生の作品のうち、70年代に、問題作とも言える社会派作品が集中している。

手塚先生は、巨匠なんだけれども、物凄い嫉妬の固まりみたいなところがあって、そのときそのとき人気の若手やブームに執念を燃やし、生涯、新しい作品を生みだした。それこそが、実は手塚先生の真の偉大さでもある、と僕は思う。

「ザ・クレーター」「きりひと賛歌」などは、劇画ブームへの真っ向からの挑戦だし、SFマガジンに連載された「鳥人大系」は、当時流行した「猿の惑星」へのアンチテーゼだなあ、とも思う。

当時の作品群を見ると、かなり荒廃的なものもあって、手塚先生も晩年に否定的な見解を示した作品もあるが、そこからはベトナム戦争や70年代安保、公害問題などの影響も強く見える。

最新の時代性を切り取りながら、問題意識の高い物語性をコミックの世界で生み出した、この1点から見ても、やはり手塚治虫は凄かった、と思う。

こうした手塚先生の大人向けコミックは、晩年近くになって、「陽だまりの樹」「アドルフに告ぐ」という、これまたとてつもない傑作へと昇華する。

「MW」は、そんな70年代の手塚先生の作品の中でも、とびきり刺激的な作品である。今読むとストーリーはかなり荒削りだが、一気に読ませるその手腕はさすが。悪人を主人公にしたピカレスク・ロマンとしても、かなりの傑作だ。

今回の映画化作品は、さすがに原作が持っていた70年代のかわいた時代性を感じることはできないが、上手く現代的に仕上げていて、とくに前半はタイでのアクションもよくできていて、娯楽映画としてはなかなかの仕上がりになっている。

刑事役の石橋凌さんは相変わらずの存在感で、映画をきっちり引き締めてくれる。

主演の玉木宏も原作にほれ込んでいるのか、なかなかの熱演であり、徹底した悪のヒーローぶりが様になっている。

ただし、中盤から後半の展開が少々甘いのが気になるところ。そして、原作で描かれていた、秘密を共有する主人公と牧師の関係性が、映画ではごっそり抜けおちているため、物語の説得性に欠けているのが実に惜しい。

原作未読でこの映画を観た方に、「実はあの2人、原作では●●なんですよ」と言うと、皆さん、納得される。どうしてその設定を無くしたのか。思わせぶりなところはあるが、それを自主規制したのだとしたら、そんなの、映画というメディアの意味はない、と僕は個人的には思う。

そんな「自主規制」と最も遠いメディアが映画であるはずではないか。気がつけば、この映画も大手テレビ局主導の大作だった。こんなところにも、テレビ局至上主義の日本映画の弊害が出ている。

原作物の映画化でも、映画という表現方法は小説ともマンガとも違うのだから、物語を変えることは「アリ」とは思う。だが、原作の「精神」を変えると、そこはもう原作とは別物になってしまう。

そこそこ面白いだけに「手塚治虫原作」の文字が、ちょっと虚しい。

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