座頭市 THE LAST  新作レビュー

★★★

「座頭市」というと、やっぱり故・勝新太郎さんなのだが、僕は小学生のころ、テレビの「新・座頭市」が好きでよく見ていた。

物語やカメラワークが斬新で、市川崑監督によるオープニングが見事だった「木枯らし紋次郎」(あのカット割は最高!)と同様、ワクワクして見ていた。

劇場版はビデオでの鑑賞だったが、映画館で観た勝さんの「市」は、1989年公開の「座頭市」が唯一だ。

勝さん自ら監督したこの作品は、これがまた斬新な大傑作で、アイデアに満ち溢れた殺陣の凄さ、英語詞によるロックバンドを使った音楽、視点がちょっと変わったカメラワーク…と、正に独自な勝新ワールド全開の映画だった。

そのあと、僕は取材で東條正年先生と知り合う。東條先生は、若いころ、山口県で高校の国語の先生をしていたのが、たまたまシナリオコンクールに応募したら入賞してしまい、上京して脚本家になっちゃった、という方だ。

東京では主に時代劇の脚本家として活躍されたが、決定的だったのが、勝さんとの出会いだった、という。勝さんに気に入られた東條先生は、僕が見ていた「新・座頭市」シリーーズの脚本家に起用されるが、東條先生が脚本としてクレジットされている回以外も、実はかなりの話数で関わったらしい。

勝さんは、このシリーズでも自ら脚本、監督を担当しているが、現場で突然アイデアを思いつき、どんどん話を変えたり、設定を変えていたそうだ。またそれがすこぶる面白いので、誰も文句が言えないから困っちゃう。

村娘を冒頭で殺してしまったはいいものの、脚本ではその娘が後半、物語の幹になるので、お話が繋がらなくなってしまう。それで勝さんは、東條先生を呼び出し、現場で新しいお話を作ってもらって、辻褄合わせをしていた、というのだ!!

これも、凄いエピソード。あるテレビ局の時代劇の脚本を手がける話があって、東條先生はプロデューサーと面会をしたのだという。先生が「勝さんのドラマや映画の脚本を担当していました」と言うと、そのプロデューサーは「まさか、『警視K』はやってないでしょうね。もし、あの番組の脚本を担当されていたら、この話はなかったことにしてください」と言ったそうだ。

「警視K」!!これぞ、勝さん制作・主演による、伝説の刑事ドラマ!!僕も見ていたが、何が凄いと言って、ほとんど物語がない回があったり、いきなり青空が映し出されて、それが延々続いたり…斬新すぎて、誰もついていけないドラマだった。何しろ設定からして、キャンピングカーに住み込んでいる流浪の刑事が主人公、という斬新さだった。

東條先生は「いやあ、いくら僕でもあんなひどいドラマには関わっていません」と言って、何とかその時代劇ドラマの脚本を無事担当されたのだという。

凄い話ばかりだが、そんな話をニコニコしながら話してくれる先生が、好きだったなあ…。

第一線を勇退された東條先生は、故郷の山口県下松市に帰り、「僕は東京でムチャをしたから、晩年は家族を大切にするんだ」と言って、そこで奥様や家族と過ごしながら、地元の中学校の演劇の脚本を書いたり、地域活動に励む紙芝居の脚本を担当されたり、地域発展に尽くされた。

僕が独立するときも、「君なら大丈夫」と言って、励まして頂いた。一昨年、80歳で亡くなられたが、本当に優しく、素晴らしい方だった。

その東條先生が話してくれたエピソードで、「最後の座頭市」の話が忘れられない。勝さんが亡くなる直前、東條先生は上京し、病院に勝さんを見舞ったそうだ。

すると勝さんは、「座頭市の最後を映画でやりたい。市の最後を今から演じるから、脚本にしてくれ」と言って、病院のベッドの上で、いきなり「市の最後」を演じてみせたという。

僕は興奮して、「市がどんな“最後”を迎えたのか、是非、知りたい」と言ったら、東條先生は「勝さんが亡くなったから、その内容を公表することはない。僕は墓場まで持って行くよ」と言われ、本当に墓場まで持って行かれた。

今回もずいぶん長い前置きになったけれど、そんなことがあったので、「座頭市」には格別の思い入れがあるし、「THE LAST」と銘打った今回の映画で、どんな“最後”を市が迎えるのか、興味を持って初日の劇場に駆け付けた。

映画全体のトーンとしては、最初の「座頭市物語」を意識しているのかなあ、という感じだ。市とは結ばれなかったオタネが、この映画では夫婦になっている。そこから悲劇と市の慟哭が生まれていくが、シリーズの基本を踏まえつつも、新たな味付けもしてあって、阪本順治監督のこだわりが感じられる。

決して美しいとは言えないものの、泥臭くも壮絶な殺陣は見応えがある。贅肉をそぎ落としたような物語展開もいい。仲代達矢、原田芳雄、倍償千恵子らベテランの演技は、さすがに安定感がある。

そんな中で、香取慎吾さんは頑張っている。若い「市」も悪くない。ただし、市を演じられるキャパシティが、今の香取さんにあるかどうか…僕自身は、場面によっては「よし」だったが、正直、シーンによって「うーん」と思ったことも事実。ただし、ここは賛否両論あるだろうから、他の方の意見も聞いてみたい。

そして、市の“ラスト”を見ながら、「勝さんがやろうとしたラストはどんなのだっただろう」と思い描いた。


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2010/6/26  11:35

投稿者:マニィ

ナットマンさま、ありがとうございます。

僕も上手く言えませんが、勝さんは「座等市物語」のときは30歳だったそうです。

要は、キャパシティの問題なのだろうな…と。

香取さんはテレビドラマ「蘇る金狼」がとってもよくて、それ以降、あまり恵まれてないな、と思うのですが、確かにナットマンさん言われるところの「経験値」などは必要なのかもしれません。

新しい「市」を創り出そうとしても、観客には「市」のイメージがありますから、若くても真面目でも、女性でも金髪でもいいんだけれども、そこを超える「何か」がないと、やっぱりお客さんは納得しないのだな、と思いました。

2010/6/23  22:08

投稿者:ナットマン

 上手くは言えないのですが、
まだまだ市の深さや広さを表現するには
あまりに若過ぎた(経験不足?)様な気がします。
 事情で次が作られないとの事ではありましたが、
この経験を踏まえた上で、香取君やスタッフの皆さんが
新たな『市』を創り出せるとすれば、
とんでもなく面白い物が出来る気がしてなりません。

2010/6/7  17:52

投稿者:マニィ

イソダコウイチさま、コメントありがとうございます!

「新・座頭市」本当にすごいと思います。

監督、クリエイターとしての勝さんは、本当にもっと評価されていい、と僕も思います。

2010/6/5  15:08

投稿者:イソダコウイチ

「新・座頭市」は本当に凄いですよね!
監督としての勝新はもっともっと評価されてもいいと思います。

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