『日輪の遺産』レビュー  新作レビュー

映画は何のために観るのか?なんて考えるときがある。

かの偉大なる映画評論家・淀川長治氏が「映画こそは大衆の娯楽なのです。そして私たちはその大衆のなかにこそ生きているのです。自分だけがわかるというようなこうまいな映画でもやっぱり大衆とともにこそ(映画)は見るべきです」と至言を残しているけれど、確かに、大衆の中に生き、大衆が求める娯楽だからこそ、そこに真実があり、そこから生きる勇気や気づきのようなものを得ることがあるのだろう。

今、映画は一般料金1800円で、各種サービスを適用すると1000円前後になるが、1000円ちょっとで日常生活では知り得ない世界を知り、そこから「頑張る」勇気や生きるうえでのヒントのような与えてくれる、こんないい「娯楽」はない、と心から思う。

この「日輪の遺産」は、現代ではなかなかあり得ない人の生き方と言うか、なかなか今の日常では触れることが少なくなった人々の想いに触れられる作品だった。でも、その“想い”は、実は僕たちの人生にとって、一番大切なものだったりする。だから新たな発見に驚き、涙し、心が震えるのだと思う。

僕は「ゴールデンスランバー」などで堺雅人氏は細かい感情表現が自然にできる俳優さんだなあ、とは思っていたが、この作品を観てさらにビックリ。

当然、俳優さんは撮影前に脚本を読み込んでから現場で演技するのだから、物語の展開は分かっているはずなのだが、この映画の堺さんは、と言うか堺さん扮する真柴少佐は、どう見ても映画の中で起こる様々な出来事に出会ったときの様が、とってもナチュナルなのだ。まさに真柴少佐が驚愕し、苦悩し、決断する様子が、映画の中の出来事に初めて接し、揺れ動く我々観客の想いとリンクしていく。

これは俳優さんたちの感情を大切にした佐々部監督の演出の妙だろうが、それに応えた堺さんの表現力は驚嘆に値するものだった。こういう感じは、最近の日本映画ではなかなか出会えるものではない、と思う。

そして、堺さんと福士誠治氏、中村獅童氏のトライアングルの妙。マッカーサーから日本軍が奪ったという莫大な財宝隠匿の命を受け、真柴少佐と行動を共にする小泉中尉、望月曹長もまた自らの感情が激しく揺れ動き、気持ちが変化していく。

どんな題材でも、人の様を丁寧に描いている点は佐々部監督の作品に一貫していることだが、この3人をステレオタイプの軍人として描いていないのがいい。戦時下の軍人でありながら、現代を生きる我々と同じ人間として感情移入できるのに、それでいて“戦時下の帝国陸軍の軍人”に見えるから凄い。

映画を通して成長を見せる小泉中尉を鮮やかに演じた福士さん、武骨な中に細やかな優しさを表わした中村さんの存在感も印象に残る。とくに福士さんは、クライマックスであの!ジョン・サヴェージを相手に、素晴らしいシーンがあるのだが、佐々部監督の作品をずっと観てきた我々としては「あの『チルソクの夏』の宅島先輩が…」と思うと、感慨も深い。

この3人に、ユースケ・サンタマリア氏扮する教師が引率する女子学生たちが絡んでいく。財宝の隠匿作業に関わる少女たちの行動と決意が、本当の意味での「遺産」となり、我々日本人が伝えていくべき大切なものを表現していくのだが、この少女たちの行動を直接「絵」として見せない展開で描き切った演出は見事で鮮やかだ。

この展開、脚本、演出だったからこそ、少女たちの想いを踏みにじらず、残していこうという真柴、小泉、望月の気持ちが鮮明となり、教師の行動が鮮烈に心に残ったのだ。佐々部監督も雑誌のインタビュー等で触れているが、もし、ここを描いていたら確かに「ひめゆりの塔」になっていた。そうなると、恐らく見事にバランスは崩れていた、と思う。

この点ひとつ取っても、説明過多にならず、緊張感と情緒のバランスが取れた、物語や展開の余白を感じさせながら、様々な想いや感情を観客に起こさせる、堂々の「映画」になっていた。

複雑な展開を見せる原作を、当時を孫たちに語る、生き残った少女の久枝の回想に絞ったのは大正解だったと思う。このプロローグから戦時下の真柴の物語となり、さらにマッカーサーの通訳という狂言回しを加えることで、物語が分かりやすくなり、様々な人の想いや顛末が映画を観ていくうちに染みていく作りになった。

そして展開されるエピローグは、異論を挟む人もおろうが、「大切なものを伝えていく」という意味ではこの映画で最も重要なシーンであり、決してファンタジーではない“リアル”として伝わって来る。

だからこそ、実際の戦争体験を持つ八千草薫さんをキャスティングしたのだろう。説得力があるし、その想いを受ける麻生久美子さん、塩谷瞬さんも好演している。

東日本大震災の発生以来、日本全体が勇気を持って立ち上がるべき今だからこそ、この映画が2011年に公開された意義は大きい。

10



2011/9/28  21:06

投稿者:マニィ

ナットマンさま、ありがとうございます!!

「ツレうつ」素晴らしいので、是非、御鑑賞ください!!

僕も学習障がいを抱えています。病気や障がいをはじめ、人には様々なハードルがあるものですが、この映画はそんな人たちの気持ちに温かく寄り添ってくれる、素敵な映画になっています。

堺さん、宮崎さん、素晴らしいです。御期待ください。

2011/9/15  21:46

投稿者:ナットマン

 堺さんは『ツレがうつに…』で
佐々部監督と続けざまのタッグ(!?)を組んでいらっしゃるのですね。
 私も、かなり治ったとはいえ、未だ心を病んでいるので、
プラス宮崎あおいさん達の映画を、
今からとても楽しみに待っているのです。

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