『泣ける』映画『泣けない』映画?  映画つれづれ

 最近、映画の価値基準を「泣ける」「泣けない」で判断しているような嫌いがある。これにはすごーく違和感を感じる。

 どんな映画でも、1つの物語、映像表現を通して人間の感情を喚起させるものであるから、当然、いろいろな表現方法があって当然であり、そこに喚起される感情も、微妙なものから大げさなものまで多種多彩であるべきだろう。
 
 だが、最近、とくに若い人の間で「泣ける」から「いい映画」で、「泣けない」から「悪い映画」と独断し、映画館に「泣くために」行くという傾向が強すぎるように思う。これはちょっと危ないな、と思ってしまう。

 映画界もそれに呼応していて、そういう若者が「泣ける」映画を分析し、リアリズムやディティールは無視しても、そういう「泣ける」映画を作る。

 とは言っても、作り手にも意地があるから、物語をベタベタにしながらも、ストーリーの仕掛けに工夫し、「泣ける」だけでなく、そこにスケール感を出したり、ちょっとリアリティを出したりしようとする。

 僕は「LIMIT OF LOVE 海猿」を高く評価したが、それは今までの日本映画にないスケール感を展開した点であって、「面白い」という点ではかなりのものではあったが、物語的なリアルさなど、作品の総体としては決して高く評価できる映画ではなかった。もちろんこういうものも日本映画には必要と思うが、こうした作品ばかりで、まっとうな作品も「泣ける」「泣けない」だけで評価されてはたまらない。

 日本映画にも良心的で高い評価を受けている作品もあるが、それは観客を選ぶ単館系が多く、いわゆるメジャー系の作品は、たちまち、この無粋な若い観客たちによる「泣ける」「泣けない」の評価にさらされているようで気になる。だから、メジャー系映画会社はこぞって少々物語に破綻があろうと、リアリティがなくとも「泣ける」映画を目指す。

 「日本沈没」など、その代表的な作品で、映画会社の要望により、樋口監督は、どうしようもない低レベルの「泣ける」場面を受け入れた代わりに、ひとりよがりのオタク的なこだわりと特撮を入れてもらったように見え、そこには媚びた姿勢さえうかがえる。これが映画作家のやることだろうか。もちろん商業ベースもあろうが、「あまりにも」である。

 僕も生粋の特撮オタクで、樋口監督の特撮へのアプローチ、小松左京作品への思い入れは共感できるのでレビューで星は3つにしたが、観客を小ばかにしたような作品自体には多少腹も立った。これが配給収入30億円を超える大ヒットをしているというから驚く。本当に一般観客は馬鹿ばっかりなのか?と思ってしまう。

 こうなると、作り手の「志」の問題になってくると思う。もちろん商業映画だから、時代性に即した「泣ける」映画を目指すことを否定はしない。でも、そこにこだわり過ぎて映画として大切なリアリティや物語性を無視することはいただけない。で、最近気になるのは、受け手側、観客の感性で、映画サイトの掲示板などを見ていると、批判とはまた違う、ちょっと的外れな感想が多いのが気になる。

 僕が応援している「出口のない海」にも、一般映画サイトの書き込みを見ていると、実に気になる記述が目立つ。「『男たちの大和』を思って見に行ったら期待外れ」「華々しく散ると思ったら肩透かし」「感動できない」…。もう、ビックリである。

 もちろん、素直に感動している評も多く、ほとんどの方々は作品にいい印象を持っているようだが、この映画は松竹のバリバリメジャー作品で、昨年「男たちの大和」という、バリバリスペシャルスーパーベタベタな作品(泣かす意図は感じられたが、それ以上に作り手の良心と熱意は十分に感じられた良作ではあった)があっただけに、この「泣ける」「泣けない」の評価にさらされてしまったように思う。
 
 「出口のない海」は、戦争の矛盾や悲しみを、静かではあるが、人の感情の起伏をしっかりと表現しながら描いた秀作である。メジャー系の娯楽作品としても、冒頭の潜水艦のシーン、豪華なキャスティング、出撃シーンの緊迫感など、十分に及第点を与えられる作品だと思う。確かに華々しさや派手さはないが、ひとつひとつのセリフが深いし、僕は初見のときは「男たちの大和」より何倍も泣けた。映画自体も別に小難しい映画ではない。普通に見れば、素直に泣ける映画だ。

 つまりは過剰に「よーし、泣くぞ!」と構えて見るベタ好きな観客の「泣けるスイッチ」とは別のところにスイッチがある映画なのだ。

 大体、「華々しく散る」特攻映画で「泣きたい」と思うことが異常だと思うし、前述の感想群からは、戦争映画というだけで、「悲惨で人が死ぬ内容だから泣けるのでは」という見る前の先入観が垣間見える。これはちょっと恐い。この映画の作り手はこんなことは絶対に考えてない。真摯に人間魚雷という狂気の兵器を描き、伝えることに重点を置いており、そういう観客とは根本的な点でずれている。

 最近評判の本「他人を見下す若者たち」(速水敏彦著/講談社現代新書)に、興味深い記述がある。これによると、最近の若者は、個人的な関心は高いものの、社会的な関心は薄く、他人を見下す傾向が強まっていて、そんな若者たちは映画でも何でも、「泣ける物語」を求めている…。そして、そんな「泣ける物語」を求めていることは、自己を確認するための一種の自己調節の道具として使われている、と分析。これは本当の「悲しみ」ではない、薄っぺらなものだと断じている。

 ベタな映画もよいし、僕も感動はするけれど、他人を見下すような若者の個人的満足を満たすだけの映画が作られていい訳がない。ベタと良作のバランスが取れた「ALWAYS〜三丁目の夕日」のような映画もあるが、もっと行間が読める、想像ができる映画で、娯楽的要素もある映画が増えてほしい。事実、しっかりと作られた芸術的にも娯楽的にも最高レベルの「七人の侍」も「砂の器」も十分泣けるではないか。

 佐々部監督の諸作品は、素直な感動ができるからこそ応援している訳で、「陽はまた昇る」「半落ち」「チルソクの夏」などは、決して観客には媚びずに、人間の感情を刺激し、きちんと「泣ける」映画になっている。意図的に「泣けるスイッチ」を機械のように刺激する「日本沈没」とは根本的に作り手の意識が違う、と思う。これは先程述べた「志」の部分とつながる。

 「泣ける」映画は心地よい。でも、世の中の軽薄な流れに呼応し、そこに作り手の嫌らしい「泣かしてやる」意識が入った映画は、底が浅くすぐに分かるし、そんな映画ばかりがヒットするのはあまりに悔しい。 
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2006/11/8  21:38

投稿者:melodie

おたっきー様
私の稚拙なコメントにレスいただきありがとうございます。
それに「異人たちとの夏」が大好きな映画なんですね!なんかすごく嬉しいです。
私もあのスキヤキ屋のシーンが心に沁みました。
風間杜夫と片岡鶴太郎&秋吉久美子なんて、ちょっと(・・?な親子なのに、親子の情愛がとても暖かく描かれてて、今思い出しても胸がいっぱいになります。
この映画はビデオで見ました。自宅で一人で見ていたら、帰ってきた家人が私の目が腫れてる(泣いたので)のを見て、びっくりしてました。(笑)

「泣ける映画志向への憂慮」本当に昨今私が感じてたことをきちんとした文章で表現していただいて嬉しかったです。

2006/11/8  15:46

投稿者:おたっきー

melodie様、真心からのコメント、ありがとうございます。これからも是非、このサイトに遊びに来てください!

「異人たちとの夏」ですか!僕も大好きな映画です。片岡鶴太郎と風間杜夫がキャットボールするシーンが忘れられません。ラスト近くのスキヤキ屋のシーンも秀逸でした…。

この映画はあざとい「泣かせ」の映画ではないと思います。死に行く者の思いと、この世に残された者の思いとの交流を切なくも悲しく描いた大林宣彦監督の傑作で、大林監督ご自身の亡くなられたご両親への愛情も感じられる良作でした。

人のドラマをきちんと描けば、必ず自然に「泣ける」作品になると思います。最近は最初に「泣き」ありきで、そのためにどうすればいいか、という発想から脚本づくりをしているみたいで、どうも気に入りません。

そう言えば、そういうテレビドラマも多いですよね。最近は映画のサントラを勝手に使った難病ドラマもあったりして、本当に作り手の良心を疑うというか、ビックリしてしまいます。

ご指摘、正にその通りだと思います。

2006/11/7  16:46

投稿者:melodie

おたっきーさん、はじめまして。
私はあまり映画を見てるほうではありませんが(特にロードショーでは見逃すことが多々)、おたっきーさんの「泣ける映画、泣けない映画」に、とっても共感しました。
私も以前から「泣かそう」っていう製作者の意図が透けてみえると、引いちゃうんです。
それは映画だけでなく、最近のTVドラマとかでも。
映画を見て、感動の涙を流せたら、確かにそれは一種のカタルシスです。
でも泣かせるために、死や戦争や、子供、動物を使うあざとさには嫌悪感を感じます。
私は映画を見て泣くとしても、どちらかといえば悲しくて、とかヒロイン(ヒーロー)が可哀想で泣くのではなく、何気ない風景や言葉や表情に胸が熱くなって泣きたいです。人と違う泣きツボをもっていたい!と思うひねくれやなのかも。
ちなみに私が今までで一番泣いた映画は「異人たちとの夏」です。これって一般的に泣き映画ですかね!?
おたっきーさんの今日の書き込み「ゆれる」さっき読ませていただきました。
テーマは重そうですが、ぜひ見てみたいと思いました。

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