「王様のレストラン」(11月12日放送分)という番組を見ていた。
京都の高級焼肉店が紹介されており、芸能人らが焼肉やナムルなどに舌鼓を打っていた。
そのさなか、辛い食べ物に強い芸能人が青唐辛子を食べる場面があった。
青唐辛子の名称としてそこには「プルコッチ」と表示されていた。
朝鮮語・韓国語をご存知の方はそれを見て、青唐辛子は「풋고추(プッコチュ)」ではないのか、と思われたことであろう。では、「プルコッチ」とは一体何なのか?
図書館にある朝鮮語・韓国語の辞書のどれを引いても「青唐辛子」は「풋고추(プッコチュ)」となっている。日本で出版されたもの、韓国や朝鮮で出版されたものすべて「풋고추(プッコチュ)」しか掲載されてはいない。
「풋(プッ)」は「まだ熟していない」を表す部分(接頭辞)、「고추(コチュ)」は「唐辛子」であり、これは朝鮮半島の方言で使われる単語である。
それでは「プルコッチ」はありもしない単語なのか? いやいや、実在する単語である。
実は「プルコッチ」はハングルで書くと、「풀고치」あるいは「풀고취」となる。
「풀(プル)」は「まだ熟していない」を表す部分(接頭辞)、「고치・고취(コチ)」は「唐辛子」である。標準語と同じ「고추(コチュ)」を使う人もある。そしてこれらは済州島(チェヂュド)の方言である。
ちなみに「취(チ)」は「추(チュ)」の口で「치(チ)」と発音する。国際音声字母(IPA)で表すと[y]の音である。
私の知っている済州島出身の在日朝鮮人1世・2世はことごとく「풀고치」か「풀고취」である。「풋고추」を使う人に出くわしたことがない。
日本で、ことに京阪神で、済州島の方言が脈々と受け継がれてきた証である。
ちなみに、「풀고치」は、『済州島方言研究(제주도방언연구)第1集資料編』(玄平孝(현평효)編、1962年、韓国、大阪府立中央図書館所蔵)に掲載されている。見出し語がハングルではなくアルファベットで表記されているのが難点だが、気になる方は一度確認されたい。

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