第七十二候 【鶏始乳】 (にわとりはじめてとやにつく) 1/30〜2/3頃
七十二候が大寒の末候に変わり、春の気配を感じた鶏が卵を産み始める頃となるという意味である。
「乳す」は鳥が卵を産むという意味。字の成り立ちは、乚(=𠃉(あつ)。つばめ)と、孚(ふ)(孵(ふ)に同じ。卵をかえす)とから成り、人・鳥などが子を生み育てる意を表す。古代、つばめがわたって来るころ、子授けを神に祈ったことによる。ひいて「ちち」の意に用いる。
本来、鶏の産卵期は春から初夏にかけてで、卵はその時期にしか生まれない貴重品であったという。今は季節を問わず店頭に並ぶため、旬の感覚は希薄であるが、卵の旬は2〜4月。
春の卵は、母体の中でゆっくり時間をかけて成熟していくため栄養価が高くなるといわれている。ただしこれは有精卵の場合のみで、無精卵は1年中、味わいや質に変化はない。
ところで鶏といえば、この地方では名古屋コーチンである。
1882年頃に旧・東春日井郡池林村池之内(現在の愛知県小牧市池之内)で、元・尾張藩藩士の海部壮平と名古屋市内で養鶏業を営んでいた弟の海部正秀が、中国から入手したバフコーチンと岐阜地鶏を交配して産まれた鶏から、名古屋コーチンは作出された。
名古屋コーチンは、肉質、産卵能力が良く、強健で温厚であるという長所を兼ね備えていたことから、評判になり、尾張地方だけでなく、京都、大阪を中心に全国に広まった。
なお、明治維新前に海部兄弟の居住した屋敷は、名古屋の橦木町筋、現在の橦木館の南側(山吹小学校の一画)にあった。

名古屋コーチン