池田清隆『磐座百選』出窓社 2018/1/25
巨石や山頂の石組みを神の宿る場所とする観念は、太古から延々と今日まで継承されてきた。
磐座(岩倉)=イワクラのクラは、神の宿る場所である。稲穂を収める倉は、ホクラ=祠(ホコラ)となり、神社(=オヤシロ)の原型である。
ヤシロのシロはヨリシロという意味で、神はヤシロ(神社)に降臨すると考えられる。
ということは、普段は神社に神はいなくて、祭りに際して降臨してくる存在であったと考えられる。
神奈備(カンナビ)という言葉があるが、これも神霊(神や御霊)が宿る御霊代(ミタマシロ)・依り代(ヨリシロ)を擁した領域をさし、神代(カミシロ)として自然環境を神体とすることをいう。
大和の神奈備は、三輪山そのもの(神体山)であるが、それを祀るのが大神神社(オオミワジンジャ)である。また三輪山の山域には禁足地があり、その中心には磐座がある。
より古き時代(稲作以前)の神観念というのは、この磐座信仰を根源に発生してきたともいえよう。
大神神社の磐座 山中に奥津磐座、中津磐座、辺津磐座と磐座が点在する。
震災にも耐えた釣石神社の丸石
熊野速玉大社元宮、神倉神社の「ゴトビキ岩」
琉球の最も神聖な斎場御嶽
日本各地に多数残る磐座。
〇北海道旭川市のカムイコタン。アイヌ語で「神の住む場所」とされているここには石狩川が流れている。自然を崇拝するアイヌの人々にとっては「神」が宿っている場所であった。
〇盛岡の三石神社。ここには悪さをする「羅刹(らせつ)」という鬼を石に縛りつけたという伝説がある。その際、鬼が「もう二度と悪さをしない」と石に手形を残したことが「岩手」の名の由来になったとも言われている。
〇茨城県の大洗磯崎神社の「神磯」は海岸を磐座とし鳥居を立てたもの。
〇長野県茅野市の「小袋石」は諏訪大社の原点ではないかと推測される巨石。
〇立科町の「鳴石」は峠にいる荒ぶる神への畏怖と畏敬から人々がここへと石を運んでつくった磐座。
〇静岡県浜松市にある渭伊神社の「天白磐座遺跡」。ここの祭神は蟾渭(せんい)神(ヒキガエル)。
〇3つの巨石からなる「天白磐座遺跡」は見た目のバランスも素晴らしい。
〇伊勢神宮内宮の「巌社(いわのやしろ)」。
〇大津市の日吉大社の「金大巌(こがねのおおいわ)」。
〇平安京の基点となったという京都の松尾大社や船岡山の磐座。
〇奈良県にある御廚子(みずし)神社の磐座。
〇船に見なした高さ18mもの巨岩を祀る大阪の磐船神社。
〇熊野速玉大社元宮の「ゴトビキ岩」。、
〇古代の祭祀形態を今に伝える島根県の飯石神社や佐太神社の磐座。
〇広島県の宮島の弥山山頂磐座、厳島神社境内の磐境、影向石(ようごういし)。
〇琉球王朝の聖地である沖縄本島にある斎場御嶽(さいはうたき)の三庫裡。
といった具合に北海道から沖縄まで、日本には知られているだけでも磐座がまだまだ無数に点在している。
池田 清隆 1946年愛媛県生まれ。53歳のときにベネッセ・コーポレーションの取締役を退任。以後八ヶ岳南麓に移り住む。標高1250メートルの森の中で「雑木庭園」を造りながら、イワクラ研究を続けている。他の著書に『雑木庭園へようこそ』・『神々の気這い』・『古事記と岩石崇拝』がある。