柳美里(ゆうみり)『JR上野駅公園口』河出書房新社 2017/2/20(元版2014/3)
TIME誌の2020年の必読書100選に選ばれ、米国の文学賞である全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した。
一人のホームレスの男性を通して日本の光と闇を浮き彫りにしている。天皇制とは、ホームレスとは、日本人にとってどういうものなのか。東京の目覚ましい発展の裏には地方からの出稼ぎによる安い労働力があり、天皇家に見せられるきれいな上野公園の裏には「山狩り」がある。
「私」は昭和天皇と同じ日に生まれ、長男浩一は皇太子と同じ日に生まれた。天皇との関わりが強い「私」は、一度目は出稼ぎで、二度目はすべてを捨ててホームレスとして生きる選択をし、上野駅に降り立つことになる
息子浩一の死、妻節子の死、孫娘の東日本大震災に巻き込まれての死、死と向き合わざるえない人生を歩んでいる。「私」の生き方を通して、日本の光と闇が「私」の視点で描かれる。
文中の「人生にだけは慣れることができなかった、人生の苦しみにも、悲しみにも、喜びにも」という言葉が意味深く重く、「私」の心の底からの叫びにも思える。