これは、ポンキッキーズがまだポンキッキだった頃のお話・・・。
テレビを消したら家の前に出て幼稚園の送迎バスを待つのが日課だった。
乗り物酔いが酷かったオレにとって、バスは戦いの時間だったが、バスを待つ時間は楽しかった。
オレはいつも15分は前に外に出て、裏の芝生へ走った。
芝生で座っていると、1階のベランダの隙間から、アパートに住み着いている野良猫が顔を出す。
三匹いたが、一匹は忘れてしまった。
茶色い斑模様の気の強い猫と、基本白くてちょこちょこ黒が入った牛みたいな模様の猫。
オレは、この白い猫が大好きだった。
走って近づくと逃げられるから、少し離れたとこから呼んだ。
じっと目を見ながら恐る恐る近づいてくるのが、堪らなく可愛かった。
しばらく抱っこして喉や背中を撫でていると、バスが来る。
芝生に下ろして「行ってきます!」と猫に手を振りながらバスに乗る。
バスの中から「お前のネコ?」と聞かれるのが嬉しかった。
雨の日以外はもう本当に毎朝猫と遊んでいた。
猫と会えればバスも平気だった。
小学生になるともちろん送迎バスなんて無い。
あまり好きじゃなかった上級生と、「登校班」なんてものを組まされた。
学校の帰り道ではみんな、「今日遊べる?」と聞き合っていた。
家に帰ると同時にランドセルという拘束具を外し、外へ飛び出した。
日が暮れて公園のチャイムが鳴るまで遊んだ。
猫とは遊ばなくなっていったが、姿はたまに見かけていた。
猫はいつの間にか2匹になっていたが、他は特に変わった事も無く、いつも芝生でゴロゴロしていた。
久しぶりに猫を抱っこしたのは五年生の時。
その日、クラスの子達とうまくいかずに体操服のまま学校を飛び出したオレは、どこにも行けずに、例の芝生で途方に暮れていた。
パートに出ていた母が家にいない事を忘れていた。
鍵はランドセルの中にある。
どうしよう・・・。
今更ながらに「学校を飛び出す」などと言う大それた事をした実感が湧いてきた。
オレはどうする事もできず、力無く座り込んだ。
悩むオレをバカにしたような、いい天気だ。
パンパンと布団を叩く音が、のどかに響く。
その時、あの白い猫が来た。
見間違いか?とも思ったが、模様も歩き方も全てが記憶のままだった。
猫はオレの膝に乗り、ごろりと横になった。
オレはなんだか泣きそうになりながら、何年か振りに、猫の背中を撫でた。
「けんちゃん!学校は!?」
突然大声が聞こえた。
同じ棟に住むタケちゃんのお母さんだった。
猫は驚いて逃げてしまった。
オレも、とりあえず逃げた。
放課後、みんながいなくなる頃を見計らって、ランドセルを取りに教室へ忍び込んだが、担任の先生に見つかってしまった。
母はオレを叱らなかった。
意外だった。
今思えば、当時はいじめによる自殺が増え始めた頃。
母も慎重だったのだろう。
「学校なんて行かなくてもいい。」などと言って、更にオレを驚かせた。
実際「学校へ行ったら殺される!」と思っていたオレにはありがたいことだった。
結局、この日からそう遠くないうちにオレは登校拒否を始め、母の職場の近所の図書館で勉強する日々を送る事になる。
3学期はまるで登校しなかった。
今思えばよく進級できたものだ。
その後、6年生になると同時にオレは長野に転校する。
ここまでの三ヶ月くらいの間、猫は姿を現さなかった。
そして、10年が過ぎた。
「うぉぅっ!?芝生が駐車場になっとる!!」
21歳になったオレは、10年振りにその町に帰ってきた。
続く

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